第2話:旅立ち?
便器から召喚された横田。状況もよくわからないまま、初めて少女に言われた台詞は…「おっさん」だった…。
―この世に復活した魔王を倒す…。
―どうやらそれが俺の役目らしいが、
―この時の俺にはどうでも良かったんだ。
「すっげー納得いかない。」
横田は憤慨していた。
漫画で良くある「召喚」などというもの、
体験出来た事は嬉しかったが…。
未だかつて、便器から召喚された勇者は横田ぐらいだろう。
目の前に座るアンジェに向って愚痴をこぼす。
アンジェは一つ溜息をつくと、横田に向けて言った。
「はぁ…おっ…じゃなくて勇者様。」
「今…おっさんって…」
慌てて訂正したアンジェの言葉尻を捉えた。
反論しようとする横田を流しつつ、アンジェは言葉を続ける。
「勇者様は選ばれし者です。魔王を倒して頂かないと…。」
髪の毛を指先でいじりつつ、アンジェは横田に言った。
「…ふむ。なんだか物凄く不本意そうだな。」
横田が鋭く突っ込む。
アンジェは腕をパタパタ振りながら否定する。
「べーつにぃー。」
あからさまにヤル気の無いアンジェ。
さすがの横田も頭に来たらしく、無言で立ち上がった。
「どこ行くんですか?」
「どこだっていいだろ。」
「外は魔物だらけですよー。」
「…」
横田はそのまま座りこんだ。
意志の弱さは折り紙つきである。
「俺はどうすりゃいいんだ?」
横田はアンジェに問いかける。
「だーかーらー。魔王をやっつけて下さいよー。勇者様ー。ふぁいとー♪」
投げやりなアンジェの態度に横田のスイッチが入った。
「…ふむ。決めた。魔王の前に…お前をぶっ殺ーす!!」
横田は立ち上がると、アンジェに向かいダッシュをかける。
相手は所詮少女。腕力に物を言わせ、大人の力を思い知らせる…。
そんなプランを頭に描き、横田はアンジェにタックルをかける。
「ふんっ…」
アンジェは鼻で笑うと、小さく呪文を呟いた。
突如横田の目の前に、大きな壁が立ちふさがった。
「うおおおおおー!?」
―ゴンッ
鈍い音を立て、横田は壁に激突した。
さすがにこの距離では避わせなかった。
「ププププ…ダサッ…ププッ…」
アンジェの笑い声が耳に残る。
横田の意識は少しずつ暗くなっていった。
横田はベッドの上で目が覚めた。
傍に居たメイドらしき人が、心配そうにこちらを見ている。
「いててて…」
ぶつけた個所を抑えながら、横田はゆっくりと起き上った。
「大丈夫ですか!?」
すかさずメイドが声をかける。
「ううぅっ…」
横田はバランスを崩し、メイドへともたれ掛った。
無論、ワザとである。
鼻の下を伸ばしながら、横田はメイドをマジマジとみている。
その姿はただの変質者であった。
横田に邪まな感情が生まれたその時、
前方より飛来する一つの皿。
―ゴンッ
「ぐあッ!?」
横田はベッドへ倒れ込む。
メイドが振り返ると、そこにはアンジェの姿。
―あの女ーーー!!
心の中で横田は絶叫した。
アンジェはこちらに向いスタスタと歩いてくる。
そして、横田の胸倉を掴み上げ、
罵り始めた。
「最低!!変態!!おっさん!!」
初めてみたイメージから想像もつかないアンジェの姿。
横田は少しビビりながらも、精一杯反論した。
「なんだよ!!死んだらどうする!!」
アンジェは「フンっ」と鼻をならすと、
横田を冷めて目で眺めていた。
「あーら。メイドさんにデレデレしていたのは誰かしら?」
「お尻まで触ろうとしてたのは…どこの誰かしら?」
アンジェはそう言うと、横田の手をつねる。
横田は冷や汗を流しながら、メイドの方をチラッと見た。
―ズザザザザザッ
激しく後ずさりするメイド。
そんな姿にちょっとだけ横田の胸は痛んだ。
そんな光景を見てアンジェは爆笑している。
横田は居てもたってもいられず、部屋を飛び出した。
「クソっ!!!」
全力で屋敷を後にし、街を飛び出した。
走り去る横田を、アンジェは溜息をつきながら眺めていた。