第1話:召喚
便器に吸い込まれた横田は、異次元へと吸い込まれた。
「今宵…勇者が現れる…」
司祭のお告げが国中に広まった。
オルターナ王国は、勇者の出現を今か今かと待ち続けていた。
街の女性の間では、様々な噂が飛び交っていた。
「イケメンらしいよ〜♪」
「若いんだって〜♪」
「…」
それぞれが勝手に想像した『勇者像』を胸に、
その時を待ち続けていた。
司祭の一人娘、アンジェもまたその一人。
父のお告げを胸に抱き、勇者の訪れを待つ。
勇者が来れば、世話係として父に任命されるだろう。
期待と不安がアンジェに渦巻いていた。
オルターナ神殿では、勇者を迎える準備が進んでいた。
神殿は街の中心部に有り、様々な儀式を催す神聖な場所。
アンジェも神殿へと向かい、正装に着換える。
ゆったりとした白いローブに、宝石を埋め込まれたティアラ。
銀と金をあしらったブレスレットを身につけ、
魔方陣の前で勇者の訪れを待つ。
月が天高く昇り、世界が歪み始めた。
勇者の訪れに、人々は歓喜の声を上げた。
―ブゥン!!
魔方陣が青く輝き出す。
いよいよ勇者の登場だ。
アンジェは緊張した面持ちで、手を合わせ祈り始める。
鮮やかな光が魔方陣を包み、勇者が登場する。
…はずだった。
人々の目に飛び込んできたものは、
男のお尻らしきものだった。
魔方陣からお尻が出ている。
少し苦しげにバタバタ暴れている。
人々は顔を見合わせ、なんとも言えない光景に言葉を失った。
アンジェもまた言葉を失い、その光景を眺めている。
顔をピクピクと引きつらせ、硬直していた。
「せめて別のものでーーーーー!!」
声を上げながら、男が魔方陣からはじき出されてきた。
―ポンッ
現れたのは横田公平。
横田とアンジェの目が合う。
気まずい沈黙が続く。
沈黙を破る様にアンジェが口を開いた。
「…おっさん…」
少女の口から衝撃の一言を言われた横田は、
目を見開いて口をパクパク動かしている。
ようやく横田が声を上げた。
「俺はまだ20代だ…」
人々のため息が神殿中に広まった。
アンジェはその場に倒れ込んだ。