第12話:魔王との出会い
「これからどうするの?」
アンジェが問いかける。
「んー…どうしようか。」
横田は曖昧に答えた。
オルターナ王国へと出発し、5時間ほどで到着。
クレールがおもむろに地図を指さす。
「あ…ここ!!」
一同がクレールを凝視した。
「酒の名産地ですよね。」
全員がため息をついた。
いまだ方向性の決まらぬまま、
一同はアンジェの屋敷にてのんびりしていた。
そんなある日、旅人から一つの情報が手に入った。
「北の大地に魔王が出現したらしい。」
その情報の真偽を確かめるべく、
一同は北の大地、ノースベルへと向かう事にした。
―ノースベル
年中雪に覆われた雪原地帯。
名産品は「ノースウォッカ」。
オルターナ王国からおよそ三日程の距離である。
一同は身支度を整えると、ノースベルを目指し旅に出た。
街道を歩いていると、山賊が現れた。
それも一つや二つではなく、今日だけで既に6つ。
ウベングルガが居る以上、その程度のヤツらに遅れは取らないが…。
さすがに頻繁に出現するのも鬱陶しい。
特にイライラしているのがアンジェだった。
「ああッ!!もーーー!!ウザい!!」
本日7つ目の山賊グループが出現した所で、
アンジェがついにキレた。
「もーーー!!しつこいヤツって本当にムカつくのよ!!」
一体過去に何があったのだろうか。
「こうなったら森ごと…。」
ブツブツ言っているアンジェをしり目に、
横田は山賊へ質問してみた。
「なぁ、なんでこんなに山賊が出るんだ?この街道。」
山賊達はキョトンとしている。
「もうお前達で7回目だぞ。襲われたの。」
山賊達は互いに顔を見合せて相談している。
「ええい!!どうでもよいわ!!皆殺しじゃ!!」
突如ウベングルガが怒号をあげた。
山賊達は怯えている。
「ちょっと待て!!気持はわかるが、無暗な殺生はいかん!!」
クレールが止めに入る。
「ほぅ…貴様、いつからわらわに命令出来る様になった…?」
何やらまずい雰囲気である。
横田は振り返ると、山賊達に言った。
「まぁ…こういう訳だから…分かるよな?」
山賊達はコクコクと頷くと、森の中へと消えていった。
その後。街道を歩く一同からは、会話が消えていった。
殺気立ったパーティに恐れをなしたのか、
繁みの中から様子を伺う盗賊達。
そのまま三日間、気まずい雰囲気で街道を進んで行った。
ノースベルに着く頃には会話も無く、
一先ず宿を手配し各々寝室へと散って行った。
「はぁ…一体どうなる事やら…。」
一人ベッドに寝転がり、横田が呟く。
『横田〜おるかのぅ〜?』
ウベングルガが訪ねてきた。
無視しようかと考えたが、後が怖いのでやめておいた。
「いるよー開いてるよー。」
ウベングルガがドアを開けて入ってくる。
「!!!」
その姿を見て、横田は驚いた。
街で流行りのセーターにチェック柄のスカート。
ブーツと白い手袋と帽子。
「どうじゃ?似合うであろう?」
ニコっと悪戯っぽく笑うウベングルガ。
横田はその姿をボー然と見ていた。
「似合わんか…?」
反応のない横田を見て、ウベングルガがシュンと肩を落とした。
「いやいやいや!!超可愛いです。ハイ。」
横田は慌ててフォローをする。
ウベングルガは再びニコっと笑顔を作ると、横田を誘った。
「街を歩かんか?この三日間肩が凝ったからのぅ。気晴らしじゃ♪」
こうして、横田とウベングルガは街へと繰り出した。
暫く歩くと、横田の腹が鳴る。
ついてから何も食べていなかった。
二人は目に着いたレストランに入ると、
ノースウォッカと幾つかの食事を注文した。
「うんまぁい!!!」
横田が喜びの声をあげる。
酒を飲んだのは久しぶりであった。
「そうか♪確かに美味いのぅ♪」
ウベングルガも上機嫌に横田に話しかける。
二人で名産品に舌鼓を打ち、土地の地酒と料理を堪能した。
「そろそろ帰ろうか?」
横田が問いかけると、ウベングルガも満足げに頷いた。
「お会計…21万ジェルでーす♪」
レジのお姉さんが軽やかに叫ぶ。
『…』
横田とウベングルガは顔を見合わせた。
お金が足りなかった。
「のぅ…どうする…?」
ウベングルガが横田に問いかける。
「どうしよう…逃げようか…。」
ヒソヒソと話していると、
レジ打ちの店員「チー」さんとやらが言った。
「もしかして…お金足りないとか…?」
ウベングルガと横田はコクコクと頷いた。
「困りましたねー…ちょっと店長呼んできます。」
そう言ってチーさんは奥へと引っ込んだ。
直ぐに店長が飛び出してきた。
「困りますよお客さーん…」
そう言って出てきたのは10歳ぐらいの子供。
「食べた物は払ってもらわないと…ん?」
子供はウベングルガを見ている。
ウベングルガも子供を見て硬直している。
『あ――――――!!』
二人の揃った声が店内に響き渡った。
「魔王様!?どうしてここに!?」
ウベングルガが慌てている。
「ここは俺の趣味の店だよ!!お前こそなんで!?」
魔王も慌てている。
そこに横田が割って入った。
「あのぅ…状況が掴めないんだけど…。」
ウベングルガが振り返ると、コホンと一つ咳をした。
「紹介しよう。この方が我ら魔族の王。スンスケ様じゃ。」
…
沈黙の後、横田が叫んだ。
「ええええええええええええええええ!?」
子供店長は魔王であった。