第二十七章 千影、連れ去られる①
次の日は、少し肌寒い晩秋の晴れた日。
千影とユキオは朝早くから十四郎の墓前へ足を運んだ。
千影は墓地までの道中、いつユキオに忍者のこと追求されるのか気が気じゃなかったが、ユキオは一言も話さなかった。
横に並んで歩くユキオの顔は、穏やかなものであった。
墓前に到着すると、ユキオは手慣れた様子で花を供えた。
そして、マッチを擦って線香の束の端に火をつけると、それを香炉に置き、その場に膝をついて、静かに手を合わせた。
千影もユキオの少し後ろにしゃがむと、同じく手を合わせた。
線香の香りが早朝の静寂に広がる。
ユキオは顔をあげると、静かに目を開け、正面の墓石を見つめていた。
そして、そっと口を開いた。
「兄貴も、艮宮山の魔王退治に行くことに賛成してくれた」
そう言うと、ユキオは力強く立ち上がり、まだしゃがんで手を合わせたままの千影の顔を見下ろした。
「決めたぞ、ニン!
銀狼は、め組と同盟を組んで艮宮山の魔王退治に向かうこととする!」
ユキオははつらつとして、迷いがなく、堂々としていた。
その姿が金色の朝日と相まって美しく、千影は思わず見とれてしまった。
我に返った千影は、勢いよくユキオの前に立ち上がった。
「俺も頑張ります!!!必ず……絶対に艮宮山の魔王を、退治してみせます!!!」
千影がそう言うと、ユキオは笑みを浮かべて深く頷いた。
千影は胸の重りがひとつ取れた気がした。
そして、ほっと息をついたその時であった。
突然、千影は背後から何者かに襲われた。
その瞬間、後頭部に強烈な痛みと衝撃が走り、目の前には目を大きく見開いて驚くユキオの顔が映った。
そして、意識が遠のく間際、高く澄んだ青空と見慣れない紫色の忍び装束で身を包んだ覆面の忍者の顔、「ニン!!!」と叫ぶユキオの声が何度もリフレインした。