表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/101

第二十三章 疑念と不安①

 それは突然の招集命令だった。

どうして集められたのか誰一人知らない銀狼の隊員たちは、アジトの大倉庫の中でざわついていた。

千影も最後列の端っこに、キヨとマサたち五番隊の隊員たちと一緒に突っ立っていた。


倉庫の入り口から、タコヤがものものしい雰囲気で入ってきた。

隊員たちは一斉に静まり返った。

タコヤが皆の前に向かい合って立つと、今入ってきた倉庫の入り口の方へ目を向けた。隊員たちもそれにつられて皆、そちらの方へ目を向けた。

すると、そこから、漆黒の学ランの上に羽織った銀狼のマトイをなびかせながらユキオが颯爽と姿を現した。

隊員たちは一斉に頭を下げた。

皆に少し遅れをとりつつ、千影も頭を下げた。

タコヤもユキオが目の前を通り過ぎる時に深々とお辞儀した。

ユキオは隊員たちの様子を一瞥することなく、隊員たちの前を歩き去ると、大倉庫の端に転がっている一斗缶に腰を下ろした。

その様子を見てから咳払いを一つすると、タコヤは隊員たちの方へ顔を向けた。

その顔はいつも以上に厳しい顔つきであった。


「め組と戦争する」


タコヤは低い声でそれだけ言った。

隊員たちは、突然の戦争宣言に混乱した。

その様子を倉庫の隅で見ていたユキオは、まったく我関せずの様子であった。


(嘘だろ……どうして急に……)


千影は突拍子もないタコヤの発言に頭が真っ白になった。


「静まれぇぇぇぃ!!!」


一番隊の大男、小太郎が太い丸太をドシーンと地面に叩きつけて叫んだ。

辺りは静まり返った。

タコヤは話を再開した。


「ついに、め組と決着をつける時が来た。

今こそ、我ら銀狼の初代総長であった十四郎さんの仇を打つ。

オメェらもこの間のめ組の奇襲のこと、忘れちゃいねぇだろ。

あのめ組の行動は、つまりはそういう意志であるということだ。

あいつらは俺たち銀狼を潰滅させようとしている。

なぜなら、め組は雷神(らいじん)の腐った信念を引き継いでいるからだ。

今こそ、め組と直接対決をして、忌まわしき雷神の信念をこの世から断つ好機」


(雷神って何だ!?そんな名前、今まで聞いたことがない!

タコヤさんはいったい何のことを言っているんだ?

め組を討つことがどうして十四郎さんの仇を討ったことになるんだよ!)


一度も聞いたことのない“雷神”というものが、突然、自分の忍務を失敗に陥れるかもしれないことに恐怖と困惑を抱いた千影は、立っているのもやっとであった。


「野郎ども!!!今すぐ、戦の準備に取り掛かれぃ!!!」


そう吠えるように言うと、銀狼の隊員全員が「お゛ぉぉぉ!!!」と吠え返した。

千影は呆然としてただ突っ立っていた。


(もし、銀狼とめ組が戦争になったら……俺は完全に終わる……何もかも……終わる……)


意志より先に千影の口から言葉が飛び出した。


「待ってくださぁぁぁい!!!」


千影の声は大倉庫の隅々まで響き渡った。

すっかり戦闘モードに入ってイキリ立つ隊員たちが、鬼の形相で一斉に千影の方に向いた。

キヨとマサは慌てて千影の口を塞いだが、皆に睨まれた瞬間、手をパッと離して千影から離れた。

タコヤがブチ切れて暴れ出す寸前の隊員たちを退けながら、千影の目の前までやって来た。

千影は全身をわなわなと震わせ浅い呼吸をしながら、タコヤの顔を見た。

頬も頭も、いたるところに血管がくっきりと浮いている。

その顔は、もはや人間のものではなかった。


「また、オメェか」


タコヤは、一番低く小さな声で言った。

千影は震える声で、何度も上ずりながら言葉を発した。


「お、俺は反対です。

この間、確かにめ組に襲われましたが、でも、それ以降襲ってこないじゃないですか。

そ、それに、あの時、俺たちは、誰ひとりめ組に傷つけられなかった……」


そう言っていると、タコヤは瞬きひとつせず、ゆっくり千影に近づいて来た。

千影はもう生きた心地がしなかったが、心の中で必死に護心術の呪文を唱えながら言うべき言葉を模索した。


「……銀狼の、タコヤさんの最終目標は、艮宮山の魔王退治じゃないですか!

だったら、今、め組と喧嘩をしている場合じゃないです!

もし、め組と戦ったら、ケガ人もたくさん出るし、仲間が怪我を負ったら、魔王退治にも行けなくなるじゃないですか……」


千影が最後の言葉を消え入るように言うと、タコヤはため息をついて千影にぴったりくっつくほど距離を詰めた。

千影は後に引き下がろうとしたが、背後にはすぐ壁があった。

タコヤは少し舌打ちすると、三白眼をカッと開いて千影右頬を思い切り殴った。

その瞬間、千影はキーンと耳鳴りが頭の中に響き渡ったと同時に宙へ飛ばされた。

タコヤは、床に叩きつけられてうつ伏せに倒れた千影の髪の毛を鷲掴みすると、引っ張り上げた。


「オメェは、本当に何にもわかっちゃいねぇな。

これは十四郎さんの敵討ちなんだよ。

十四郎さんはな、め組の前身である雷神のリーダーに殺されたんだ。

殺した張本人は行方不明だがな。

現在のめ組の大将も十四郎さんが殺された現場に居たんだよ。

この意味、分かるか?」


衝撃的な事実を、薄れゆく意識とともに耳に入れた千影は、言いようのない絶望を味わった。


(十四郎さんが殺された時、その場に湊さんがいた……だって!?)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ