目覚め
「今日はツイてないな…」
そう呟きながら細道を走っている。時刻は午後6時、いつもならとっくに家に着いている時間だ。だが、今日は違う。なぜなら得体の知れない化け物に追われているからだ。
(なんでこんな事になってるんだ……?)
日常からかけ離れた状態になった理由は一つだけ浮かんでいた。というか、それしか無いのだ。
それは、一時間前の事だった。下校中の俺に話しかけてきた男がいた。黒い服に黒いズボン、不審者の鏡のような姿だった。
「やあ、東城黒羽くん。少し話がしたいんだけど。どうかな?」
「いや、普通ついて行かないですよ。こんな、ザ不審者って感じな人に」
「確かにそうだな。じゃあ、君に関して君がしらなくて、僕が知っていることを話すってのはどうだい?」
「自分の事は自分が一番知ってますよ。じゃあ、そういうことで」
話を切り上げ、さっさと逃げようとした。ここまではよかったのだ。だが、次にとった行動が原因なのだ。
「まあ待て、少年。血がつながっていない者と家族ごっこは楽しいか?」
「……はぁ?それどういう」
突然、意味不明なことを言われ思わず振り返ってしまった。その時、男は俺の顔の前で指を鳴らした。突然のことに驚き呆けていた俺に一言放った。
「きっかけは作った。あとは、君次第だ」
それから、あの化け物が見えるようになったのだ。
「なにが『君次第だ』だよ……あんたのせいで死にそうだ…」
すぐ後ろを化け物がついて来る。それは、熊のような形をしていて、攻撃範囲内に入るとすぐに長い爪で切り裂こうとしてくる。
それを避けて十字路を曲がる。
「あー……失敗した…」
目の前には追いかけてきていたのと、同じやつがいた。当然後ろにも。
「万事休すってやつかな…」
すると、次の瞬間、竜が後ろにいた化け物に噛み砕いた。噛み砕かれた化け物は、塵になって消えた。それを見ていたもう一匹は竜に睨まれると急いで逃げていった。そして竜の後ろから人が現れ、駆け寄ってきた。
「大丈夫………って、黒羽君じゃん!」
「えーっと…確かクラスメイトの……」
「茜だよ!!紅床茜!!名前くらい覚えててよ!」
「ああ。助けてくれてありがとう」
「どういたしまして。とりあえずついてきて。怪我もしてるみたいだし」