《即死魔法》は死を穿つ
「──あぶっ!!」
フェイは《アンフィスボーン》の先制攻撃をバックステップで回避し、少女と《アンフィスボーン》を交互に睨む。
(なるほど……死霊傀儡師か。)
少女自身戦闘力は皆無らしく、《アンフィスボーン》に乗ったままで特に何かを仕掛けてくる様子はない。あくまでも戦闘は従者頼りに、その指示や補佐をする《ネクロマンサー》なのではないかとフェイは思った。
『カラァァァァァァァァン!』
そうなれば実質、一対一同然である。フェイは《アンフィスボーン》の単調な攻撃を軽々と回避し、その脚や身体、首に向かって短剣鎌を叩きつける。
「ちっ、やっぱ硬いなぁっ……!!」
「ほらほら早くくたばっちゃいなさいよ!!」
だがフェイの武器では、その骨にまともにダメージを与えられない。何度も弾かれ追撃を貰いそうになるのを必死に避ける。ベイルーンから貰った傷もまだ完治しきっておらず、自分の魔法も効かないというかなり苦しい戦いを強いられていた。
『カラァン!』
「───っふぐ!!」
《アンフィスボーン》が振り回した長い尻尾がフェイの背中を叩きつけ、そのまま彼女を壁まで吹き飛ばす。岩肌に横から衝突したことで顔を切ったのだろうか。頬にできた切られたような傷から血が流れだしていた。それでも彼女は痛みに顔を抑えながら立ち上がる。
「なんで……なんでこの状況で立ち上がれるのよ!」
「なんでってそりゃあ……」
全く諦める素振りを見せないフェイの姿に狼狽える少女。その少女の問いに、フェイは「愚問だな」とでも言いたげに乾いた笑いを見せる。
「──殺したいほど憎い奴がいるからだよ。」
フェイは物騒な物言いに反し、少女に向かっては爽やかに笑って見せた。だがその裏には言葉通りに酷く歪んだ憎悪のような感情が込められており、嗤っているように見えて心から笑ってはいなかった。
「……だからここで死ぬわけには行かない。例え君が諦めていようが私は這い上がってやるんだ。」
『カラァァァァァァァァン!』
フェイの暗い感情に揺さぶられている少女を置き去りに、フェイは一人覚悟を決めていた。そんな彼女の強い感情に揺さぶられたのか、《アンフィスボーン》が猛々しく骨を鳴らす。
まだ身体に傷ひとつない《アンフィスボーン》に対し、フェイの身体は既に傷だらけで満身創痍といった感じだった。
「……!!なら見せてみなさいよ!貴女の覚悟って奴を!」
「最初からそのつもりだけどね!!」
少女の言葉に「言われるまでもない」と返し、剣を構えて走りだすフェイ。一筋の迷いもなく《アンフィスボーン》の動作を見切って的確に回避し、カウンターに刃を突き立てる。武器がこれしかない為仕方ないとはいえ、全く効いている様子はない。
(ブレスを吐かないのが救いだなこりゃ……とりあえずまずは活路を探してみないと。)
フェイは《アンフィスボーン》の様々な部位に刃を当てるが、全身骨のこれを相手取るには手に持つ短剣鎌では心許なさすぎた。
「喰らいなさいっ!《翼落とし》!!」
『カラァァァァァァァァン!』
少女の命令と同時に、不規則な動きをした《アンフィスボーン》の翼が唐突に外れ地面に落ちた。
「おわっとお!!」
突然の挙動に驚いたフェイだったが、特に必要以上に気にする様子もなく回避して見せる。それなりの重さのソレが落ちたことで、砂埃が周囲に舞う。
(な……なんだありゃ!?)
否、フェイは常軌を逸した相手の動きにかなり動揺を見せていた。対する《アンフィスボーン》の翼が何事もなかったかのように宙に浮いてくっついたことで、フェイは更に困惑している。今や元通りの《アンフィスボーン》である。
(もう骨っつーか人形じゃん!なんでもありかよ!!)
身体の一部を分離させて攻撃し、そのまま元通りに戻る《アンフィスボーン》の姿は操り人形だと言った彼女の発言は何処か的を射ているように見える。
(ん……人形……?)
彼女もどこか引っ掛かるところがあったのだろうか、フェイは再び分離して襲いかかってくる翼に飛び乗り、元に戻ろうとする動きを利用して《アンフィスボーン》に接近する。
(やっぱり……!複雑な軌道が出来ない辺り糸のようなもので釣られているだけ!)
フェイは《アンフィスボーン》の仕掛けに気づいたと言わんばかりに翼から飛び降り着地する。その翼は単調な放物線を描いて元の鞘へと収まった。
『カラァァァァァァァァン!』
元の位置に戻った二つの翼が再び鞘を離れてフェイに襲いかかる。彼女はその軌道を見切って完璧に回避し、そのまま《アンフィスボーン》へと一直線に向かう。
「本体はこっち!」
「きゃっ……!?」
フェイが大きく跳躍し、少女の身体を抱き締めると同時にそのまま飛び降りて《アンフィスボーン》から離した。
『カラァァァァァァァァン!』
術者から離れてなお、《アンフィスボーン》は何事もなかったかのように翼を回収してフェイの方へ振り返る。彼女はもうギミックを理解しているのだろうか、その様子を見て特に驚いたりはしていない。
「ふうっ……効き目はあるようでよかったよ。《デス》。」
フェイは左腕を伸ばし、触手の如く勢いよく黒い靄を放った。それは《アンフィスボーン》の……正確にはその身体にくっついていた魔力の糸をブツリと切ったのだ。生命線である操り糸を失った《アンフィスボーン》の身体が重力に従って落ち、ガラガラと大きな音を立てて崩れていく。
「そ……そんなっ!!」
信じられないと驚く少女を横目に、フェイはしてやったりと悪戯に微笑んで見せた。
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