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粉砕術士の過去1


──それはあまりに一瞬の出来事であり、流れるようなコンビネーションを事細かに話さずとも実現させるチーム、パーティとしての理想系の形。戦いが終われば一呼吸入れて談笑に浸ってみたりと一人での任務では決して得られない物が沢山あった。



「.....。」


しかし彼女はその光景を見て、口惜しそうに眺めるに留まっている。何かを言おうと口を僅かに開けかけるが、肝心の言葉がそこから出てこない。


リティアは二人の動きを見て、何かを思い出したようであった。




・・・・・



一年と二ヶ月程前。この頃はパーティ成立の為に一時的に入れてもらうこともあって、様々な依頼をこなしてきたつもりだったのだ。







あくまでも、私目線は。





「──────ちゃんと動けよお"前らぁっ!!」


背の高い木々が鬱蒼と生い茂る森林地帯、穏やかな風やガサガサと静かに揺れる木々の音の合間に似つかわしくない怒号が響き渡った。それは依頼中、Dランクの依頼でありながら比較的大柄な魔物〈大牙鼠(オーガラット)〉の討伐中のことだった。



「んなこといったって...後衛を守る役目の私まで前に出てしまったら、味方との距離が出来てしまうだろうに。」



前衛は私ともう一人、目の前で言い訳垂れる盾騎士シールドナイトのゲインがいた。赤みがかった茶髪を短く纏めた爽やかでありながら渋みある顔つきの男。外見や古ぼけた銅色の鎧は年季を感じさせ、年齢は42と身体にガタが入り始める程でありながら老いを感じさせない、まだまだ前線を張っているベテランのCランク冒険者であった。



「機敏なシルヴィはともかく、魔術師のエリーは詰められたら弱い。味方の脆弱さをカバーするのが前衛の役目じゃないか。」



そう私を諭してくるゲインの後ろで縮こまる二人の女の子、〈盗賊(シーフ)〉のシルヴィと魔術師のエリーが私を遠巻きに睨みながら、彼の言葉に同調するように頷く。

シルヴィは黒のバンダナを巻いた銀髪の少女で、パーティ内で最も一際小柄な体躯をしている。ルインちゃんより頭半分大きいくらいの、そんな彼女の纏う装備には一切の金属が含まれておらず、外見だけで分かるまだまだ新米のEランク冒険者だった。

盗賊は名前の通り、採取と強奪など盗み関連のスキルが豊富な近接職業だ。熟練度を上げればすれ違い様に魔物の武器である牙や爪を掠めとるように奪う芸当も出来る。


しかし、録な魔法も使えないであろう新米の盗賊であるシルヴィがそんな芸当が出来るかといえば、それは火を見るより明らか。NOである。


そもそも盗賊自体、前衛として数えられる役職でないことは明らかだ。防御よりも回避と妨害に長けた、どちらかというと後衛寄りでパーティに必要不可欠なものでもない。



そして二人目、魔術師のエリーだがこいつは酷かった。使える魔法が最低辺の〈ライト〉と〈トーチ〉だけという中々やってる魔術師で、攻撃することを放棄しているようにしか見えなかった。

〈ライト〉は輝光属性の光の弾を飛ばす魔法で、まだ同格Eランクの魔物ならどうにかなるであろうレベル。オーガラットには到底ダメージになっていなかった。


〈トーチ〉は周囲を照らすだけのランタン程度の光を放つだけという、最早訳が分からない魔法だった。え、ダメージ?なるわけがない。



彼女は鍔の大きな紫色の魔女帽を目深に被り、私を恨めしそうな上目遣いで睨む。その目は生気の無い橙色の濁ったもので、フェイさんよりも暗めな藍色の髪を腰辺りまで伸ばしているなど見ているだけで呪われそうだ。



「....。」



実はあと一人、このパーティにはメンバーがいる。エリーとシルヴィの更に後ろからこちらを睨みつける陰気な黒髪の男の子だ。表情の全貌こそ窺えないものの、髪の分け目から覗く翠の瞳は鋭く輝き私を捉える。彼の名前はザミ。黒と赤の二色であしらわれた洒落っけのないローブを身に纏っているが、なによりの特徴は武器を所持していない点だ。


一応後衛らしく普段からサポートに徹しており、状態異常魔法を駆使して状況を有利に働かせてくれる。自分の役割すら果たせないEランク二人とは違ってまだまだ使える部類のDランク冒険者だ。



攻めれば止められ、守ったところで価値のない低ラン後衛の御守りをしないといけないというグダグダなパーティ方針に半ば嫌気が差してきたところだった。



「守って後ろに退いてたら逃すじゃないですか!!狩れる人が前にでて狩るのが、最も効率的な筈です!!私とゲインさんさえちゃんと動ければ勝てるんです!!」


「わ、私達が狩る練習をっteひいぃっ!!」



何かをいいかけたエリーが私を見て悲鳴をあげ、そのまま黙り込んでしまった。そんな怖い顔なんて絶対していないのに。


「...前衛が一人増えるから良いって思ってたけど、サイテーね。何で敵の他に前衛の事まで気にしないといけないの、邪魔なんだけど。」


「前衛の事までって、貴女は前衛を何だと思って...!!」


シルヴィはやれやれと私を睨みながらわざとらしく両手を広げて首をすくめた。その前衛が守ったり、隙を作り出したところを叩くのが後衛の役目ではないのだろうか。彼女の言葉はまるで、前衛なんて気にするに値しない。後衛の自分達を守るのが当たり前とでも言うような言葉だった。


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