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粉砕術士の一撃


『アオオオオンッ!』


(ブレスッ!?)


アビスウルフの口許が一瞬だけ蒼白く輝くと共に、青色をした火球が放たれた。ブレスというには小さな火の玉のようであったが、事前知識に無かった突然の動きに後ろで構えていたフェイも驚きを隠せなかった。



「リティ──────」


「大丈夫って言ってんだろ私に構うなぁぁぁ!!」



フェイよりアビスウルフと近い距離にいたリティアが一言そう返すのと、彼女が剣を振り火球を弾き飛ばすのが同時だった。剣の腹で火球を掻き消すと、リティアはすぐに地面に向かって剣を叩きつける。



「砕術、《ロックバレット》!!」


そしてロックガンを放った時と同じ挙動で、衝撃によって宙に浮かんだ人の頭程の大きさをした岩を砕いた。ロックガンよりも細かくなった破片がアビスウルフ達の身体中に降り注ぐ。


「ようやく捉えたぜえぇクソ犬がよぉぉぉっ!!《パワー》!《アタックチャージ》!《バーサク》!《集中(コンセレイト)》!!」


アビスウルフの動きを止め、やっと攻撃が当てられると確信したリティアが自身にこれでもかとバフを掛ける。同ランク帯の魔物であったアベルトルースを意図も容易く屠った彼女の実力にしては、あまりにも過度な重ねがけだ。



「ふんっ...ぬぁあああああ!!!!!」



彼女の全殺意を込めた一凪ぎは、平行に並んでいた二体のアビスウルフの顎を砕く形で顔面にクリーンヒットした。アビスウルフは一鳴きする時間すら与えられずに吹き飛ばされ、地面に叩きつけられると同時に動かなくなった。



「っだあ...どおだあっ!!!はあっ..はあっ...。」



念願とも言える、アビスウルフの討伐にリティアは頬に汗を垂らしつつも満足そうに歯を見せて笑う。


「す、すごい火力....」


「出力がとんでもないなこりゃ。」



恐らく、これが彼女の本気なのだと二人は理解する。アベルトルースとの戦いではいかに力を抜いていたか。高い威力を以て目の前の敵を葬ることに集中する。とても少女の身体から放たれてはいけない火力にルインは目と口を大きく開け、フェイも事態を慎重に観察しながらではあるが内心驚きを隠せない。



「これが...これが私の本気だぁ!!文句ねえだろなあ!!」



リティア自身もこの火力の高さは誇れる部分であるらしく、後ろにいる二人に力の差を見せつける。



「火力は凄いね、確かにこれで戦っていけるならCランクでもおかしくないかも。」



フェイはすぐに冷静さを取り戻してリティアの火力を褒める。しかし数秒考え込んだ後に「でも」、と濁すように視線をやや下に向けた。


「脚、辛くない?まだ依頼終わってないよ。」


「えっ、今ので終わりじゃ...ない???」



まだ終わりじゃないと聞いたリティアが呆気に取られ、力無くゆっくりと剣を下ろしてその場に座り込んだ。全身全霊の一撃を使うべきところを履き違え、依頼半ばにて疲労してしまったようである。



フェイはそんなリティアのすぐ側で腰を落ち着けると、回復薬の入った瓶を差し出す。



「単体の魔物討伐ならそれでもいいけど……早とちりすぎだよ。全力の一撃だって、そう何回も撃てるもんじゃないでしょ。」


「....。」


「群れの討伐クエストは、確かに数こそ決まってない。これはギルドでも把握しきれていない数の群れの増殖を抑えるって意味合いでもあるんだ。今回討伐した数ってのは今後の討伐依頼の指標にもなる。まあそれでも、最低ラインはあるみたいだけどね。」



自分でも思うところがあるのか否か、リティアは大人しく回復薬を啜りながらフェイのお節介を聞いている。



「火力はほんと、凄いよ。キミに自信が付くのも凄いわかる。でもさ、感情的になりすぎてすぐにオーバーヒートしちゃう前衛は見ていて結構不安かな。」



そしてフェイは自分の視点から今回のリティアの動きを指摘する。リティア自身の強みは否定せず、どちらかというと考え方の方だ。今回の依頼はアビスウルフの群れの討伐。敵が一匹ではなく複数いることはリティアにもわかっていたことのはずだ。

だがリティアの戦い方はアビスウルフに苦手意識があったとしても乱雑で、後の事を考えていないと言われても文句は言えない立ち回りだった。パーティに置ける前衛は後衛を依頼終了まで守るものであるのに、その前衛が疲労で膝を付いているようでは後ろにいる者達も不安になるというもの。



「力を入れんのも大事だけどさ、リティアはもっと力抜きな。」


「...手抜きしろってことですか?」


「深呼吸しろってことだよ。そのペースでやられて困るのは私。」


隣に座っていたフェイが立ち上がり、呆れ半分でそう告げる。それに続いてリティアも脚を震わせながら立ち上がり、言われた通りに深呼吸する。



「あと五匹くらい、狩れればいいかな。」



ナイフの付いた鎖を軽く振るいながら、フェイはリティアの様子を見てそう呟いた。

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