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《粉砕術士》の初陣


「ブツブツブツブツブツブツ……」


しかしいざやる気になっても、リティアの怨念混じりの小言は絶えない。ここまで来ると、普段から不平不満を糧に戦ってきたのではないかと思えるくらいだ。


「ちょっとアンタねえ!やるって決めたらしゃんとしなさいよ!!いつまでそんな愚痴を垂れ流してるのみっともない!」


ブツブツと絶えず流れる鈍い音に耐えかね、ルインがついに折れた。いくら訳があるにしても、決して聞いていて気持ちのよいものではない。士気が下がるを危惧して怒りたくなるのも、もっともな反応だろう。


「……これが普段の彼女なんだ、少し様子を見よう。」


「でも!!」


手をルインの前に振りかざし、彼女を制止するフェイ。リティアのこの行動が既に癖付いていることを察し、咎めようとはしなかった。


勿論、その癖が簡単には払拭できないということも。


「それに、そろそろ着くからね。まだ何も見てすらいない。ここで折れるのは早いよ。」



ここで怒ってエネルギーを消費しても仕方ないと、ルインを諭す。フェイの表情は少しだけいつもより暗く、少なくともリティアの言動を歓迎してる様子ではない。



「むー。」


ルインは頬を膨らませて抗議するも、これ以上言っても無駄だと口では言わなかった。まだ始まったばかりで、リティアを評価する土俵に立っていない事を頭では理解してるのだろう。

それでもフェイと比べて心身ともに幼く、分かっていても思わず口に出してしまったり噛みつかずにはいられない年頃なのかもしれない。



「ブツブツブツ……よし。」


一頻り恨み辛みを口走った後、リティアは両手剣を高々と振り上げ掲げる。表情も一転させており、真ん丸な琥珀色の瞳は燦然とした輝きを取り戻している。


「おっしゃああああ!やってやりますよ!!全部粉砕したらああっ!!!」


空高く唸るような大声で、ありったけの力を込めてリティアが叫ぶ。その勢いのまま両手剣を地面に振り下ろし、ドスンという鈍い音が響いた。


その衝撃と音にビックリした鳥や獣が一斉にその場から逃げ出すのを余所に、リティアは一人大きく深呼吸をする。



「凄い変わり様ね。」


「愚痴をエネルギーにしてるんだろうね。」


リティアの感情の起伏の激しさに呆気に取られながら、二人もそれぞれ武器を構えて準備に取りかかった。



───フェイが腰にぶら下げていたナイフに手を掛けた刹那。山道の奥からドタドタと地面を蹴る激しい足音が響く。



それは明らか、四足のまともな魔物から生じる音ではなかった。しなやかな動きで静かに獲物を狩るハンター……とはかけ離れたその音の正体が彼女たちに近づきつつあった。



「ひっ……!!」


その正体にいち早く気づいたルインが恐怖に声を漏らした。顔は青ざめ、人形を握る手に力を込めながらフェイの後ろに隠れる。



その反応になるのも無理は無かった。なぜならそれは、″人間の頭を持つ″不気味な姿をした駝鳥ダチョウだったのだから。


「ななな、なによあれ!!」


「……!」



件の魔物を遠巻きに見ながら、ルインがリティアにあわてふためきつつも問いかける。首から下は完全に駝鳥であるが、問題の頭は蒼白の肌をしたまるで人形か石膏のような男性の顔だったのだ。そのインパクトの強さに思わずフェイも一歩退いて尻込んでしまう。


だが顔を除けば特に魔物らしい異質さもなく、スピードも駝鳥の持ち味といえるだろう。



……そんな魔物が二本の脚で地面を高速で走破する姿は狂気以外の何者でもないが。



『キェェェェェ─────!!!』



フェイ達に気づいた件の魔物が鳴いた。その声は鳥以外のなんでもなく普遍的で、だが異質な鳴き声だった。


人面駝鳥アベルトルースですね。不気味な見た目をしてますが、特に脅威でもないですよ。ここ周辺で見られるDランクの魔物です。」


だがリティアだけは特に怖がる様子もなく、淡々とそう言い放ち武器を振り上げて構えを取る。


「じゃあ私の実力、見せてやりますよ!」


リティアはそう言って二人の前に出て、アベルトルースを待ち構える。彼女の持つ緋色の大剣は魔物の顎がそのまま抜かれたような姿形をしており、巨大な牙に隠れて肉食恐竜のような細かく鋭い牙が幾重に渡って張り巡らされている。

この武器はまさに獲物の皮膚や鱗に穴を開ける為に作られたといって過言ではない。


「《アギトブレイカー》……!!木っ端微塵に爆ぜやがれええええっ!!!」


そのままありったけの力を込めて、大剣、アギトブレイカーを躊躇いなく振り下ろした。アギトブレイカーは岩が砕ける音を響かせながら地面に大きな亀裂をいれた後、リティアによって再び持ち上げられる。

彼女の表情は修羅のごとく歪み、自分の背丈を越える代物であるそれを軽々と扱って見せる。

アベルトルースは首を逸らして大剣の軌道から外れ、なに食わぬ顔でバックステップを二度行い距離を取った。


「あ"あ"避けんじゃねえよカスウウウウッ!!!」


「こっわ……。狂戦士(バーサーカー)かよ。」


その光景を遠巻きに見つめていたフェイが一言、率直な感想を呟いた。ルインは怯えた様子でフェイの服の裾を掴み、何も言わない。因みにリティアは狂戦士ではなく、粉砕術士という違う役職だ。


「砕術……《ロックガン》!!」


距離を取ったアベルトルースに更なる追撃を加えるリティア。彼女は今の衝撃で空中に飛んだ、人の頭ほどの大きさの岩を大剣で殴打し、アベルトルースへ向かって打ったのである。



『キョエエエエッ!!』


決して小さくないその岩はアベルトルースの腹部に命中し、よろめかせる。岩を砕くことなく、相手のもとへ岩を射出する芸当は誰にでも出来ることではない。それだけでリティアは力加減が上手く出来ているという証拠になっていた。


「まだまだあっ!!」


その隙を当然逃す理由はない。リティアは剣を両手に持ち、全速力で駆け出した。一瞬でアベルトルースとの距離を縮めた彼女は大きくジャンプし、全体重を乗せて大剣を振りかぶる。


「こ・れ・で、くたばれぇぇぇぇっ!!!」


『ア″ア″ア″ア″ア″ア″ッ!!』


空中で大剣を握る力を強め、幾重にも散りばめられたアギトブレイカーの牙がアベルトルースに向けられる。まるで上から噛み砕かれるかのように、その牙と地面に挟まれたアベルトルースは断末魔を上げて潰れるようにその場に倒れ込んだ。

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