即死魔法は依頼へ向かう
評価ポイントが100に達し、総PV2万突破しました!ありがとうございます!
その後フェイはロイデから依頼書を受け取り、正式にギルドを通して深淵狼の群れの討伐を受けることにした。まだ日も高い位置にあり、三人はすぐにでも依頼を受けにいこうと現地に向かうところだった。
「アビスウルフアビスウルフアビスウルフ……」
「……大丈夫かしら。」
だがリティアは余程のトラウマがあるのだろうか、ギルドの建物を出たときからずっと呪詛のようにアビスウルフの名を連呼しているだけである。
ルインがちょいちょいと身体に触れて呼び掛けてみるも反応はなく、当の本人は項垂れながらゾンビのような足取りでなんとか着いてきている。
(よっぽど苦手なんだな……)
フェイはその心中を察し、苦笑しつつもナイフを握る手の力をぐっと強めていった。
「アビスウルフは全長二メートル程度の群青色の毛を持つ狼で、俊敏な動きと催眠効果のある牙で獲物を眠らせて狩る魔物……普段は単体、もしくは一匹一匹が独立した思考を持つ群れとして行動するが、時にリーダーの魔物に従い行動する……?」
そんな二人をよそにルインが片手にアビスウルフの解本を持ち、すらすらとその特徴を口に出してフェイに伝える。その後時々首を傾げて何度も同じところを読み進めており、あまり意味を理解できていないようだ。
「普段は単独か、リーダーの無い群れで行動してるってことだね。誰が命令するわけでもなく、まるで本能のように統率のとれた動きをするってことだ。」
フェイが簡単に噛み砕いて、ルインでもわかるように説明して見せる。小さい子供にはまだ理解するのが難しい単語も混じっているが、ルインはなんとかついていけているようであった。
「じゃあこのリーダーってなんなのかしら?」
気になったことをすぐに聞き出そうとするルイン。だがそんな彼女の向上心を買って、フェイは笑みを絶やさず話し出す。
「他の魔物に従うってケースはたまにあるみたいだよ。ゴブリンがオーガに従うとか、そんな感じ。」
分かりやすいフェイの例えを聞き、「なるほど」と返すルイン。彼女も理解できたようで、その表情はこれから依頼へ出向く人とは思えないくらい明るかった。
「……」
その反対に、リティアの表情はこの上なく陰りが濃くなっていくが。前を歩くルインの歩幅より小さく、徐々に引き離されつつある状態である。それを感じ取ったフェイが二人の間に入って距離感を調整しているようだが、リティアから先程の覇気は全くもって感じられなかった。
「……そんなに苦手なの?」
「はい……。」
そんな彼女を気遣い、フェイは一言呼び掛ける。会話こそできるが全くもって話が繋がらず、右から左に流れる空気の通り穴でしかない。
「じゃあ参考になるから、何が苦手なのか教えてよ。私達にとっては初めての相手だから、少しでも経験を語ってくれたら助かる。」
それでもフェイは機転を利かせ、リティアにアビスウルフの事を聞き出そうとしていた。冒険者としての等級はフェイの方が上とはいえ、オルディン近郊の知識はリティアの方に軍配が上がる。
アビスウルフ自体がフェイとルインにとって初めてなのもあり、単純にリティアの経験談は二人に有益なものであるという考えだ。
「速い、小賢しい、群れる。ホントそれだけの、解本通りの魔物の癖に……」
(ほぼ私怨じゃないか、だとすると過去によっぽど何かあったのか……)
だがリティアの口から出たそれは、もはや知識とは呼べない怨嗟の声だった。経験則に乗っ取って話していることは理解できるが、全くもって参考になりはしない。
彼女から放たれるのは殆どアビスウルフに対する恨み辛みばかりであり、フェイが求めている答えには遠くかけ離れている。
「5体がかりで攻めて来やがって……数だけで圧そうとするクズが……」
(小規模の群れ……というかチームだな。)
「まともに噛みつきしかしてこない一辺倒のくせに……」
(武器は牙による噛みつき……睡眠効果のある攻撃に注意と……)
「私が攻めるタイミングで割り込みばっかりしやがって……」
(仲間意識がかなり高い魔物か。味方の隙を埋め合わせるコンビネーションが得意とみた。)
リティアの愚痴を半ば聞き流す形で、フェイは自身のメモに読み取った特徴をひたすら書き綴る。
「ルイン。今回は防御に徹してもらいたい。確実に反撃できるタイミングでしか攻めない動きでいくよ。」
「それが勝算なのね。」
「今回の相手は殆ど真正面にしか攻撃できないタイプの魔物だ。奴らの武器も睡眠効果のある牙と飛び掛かりくらいだろう。ただ一匹に隙が生まれても他の仲間がカバーしに動いてくると思うし、動きすぎず確実に一発を返してくのが得策だと思う。」
ルインに耳打ちし、今回の二人の動きを決めるフェイ。その内容は動きを最小限に抑え、不必要に体力を消耗しないように立ち回る防御中心の構えだった。
無理に攻めれば必ず隙が生まれ、数で不利な状況ではそれが命取りになるという判断であった。
「あと、単純にリティアの実力を見てみたいからね。アビスウルフが苦手なのはわかるけど、一応依頼だからやる気だして。」
「はーい……」
フェイが軽くリティアの肩を叩き、「やる気出せ」と促した。だがリティア相変わらず苦手意識が買って中々調子を戻せないようだった。