即死魔法とリティア
久しぶりの投稿遅れましてごめんなさいっ!
それから、リティアは生気を失った顔で俯きながら、ぽつぽつと自分の心境と今回の奇行に走った理由を話し出した。
「オルディンは他のギルド以上にパーティやチームで活躍することを重視している、というのは聞いていますか?聞いているから貴女達も仲良く組んでいるのでしょう。私はもっともっとやれるのに……歪竜程度、私だって殺れます……」
「そんなことは聞いてない。私はなんであんなことをしたのか聞きたいだけ。」
だがリティアから発せられる言葉はまるで答えになっていない。口を開けば「もっとやれる」だの自己を肯定するだけの言葉が、まるで呪詛か壊れた機械のように繰り返し響いている。
「……ラルクさん、私はどうしたら?」
「ルイン君は大人しく話を聞いてるだけでいい。何かあったら僕らが守るから。」
片手に大振りの剣を持ち、今にも斬りかかってきそうな彼女に怯えるルイン。その左右にはフェイとラルクが挟み、リティアの後ろにはロイデとシャリテが不測の事態に備えて構えている。
Dランク冒険者一人に対してあまりにも手厚い対応だ。
「とにかく私はもっと上に行きたいんです。その為に等級を上げてほしいだけなんです。」
「……パーティは組まなかったの?」
「少し前までは腕を買われて、パーティに参加することはありました。正式なメンバーとしてではなく、あくまで契約としてですが。」
リティアは過去を懐かしむように、半笑いで吐き捨てるように言った。彼女の現在の様子を見るに、そのパーティで上手くやれなかったのだろうということは想像に難くないだろうが。
「誰も私に着いてこれてない……等級という甘い汁を啜っている雑魚どもなんかと違って……私はもっと高みを目指していける!」
「要するに、自分が強いから試験を受けさせてくれってこと?」
「そうです。今の私ならC……いや、頑張ればBランクまで行ける実力がある……なのになんで、試験を受けさせてすらくれないんですか!!」
発言の意図や真意が怒りに流されつつあるが、何とかリティアの置かれている状況を読み取ったフェイ。続くリティアの言葉には何も返さずラルクを見やった。下手に刺激するよりも彼の言葉を待つべきだろうというフェイなりの配慮だ。
が、ラルクは口を開くことなく二人の会話を聞いているだけだった。
「クソ……仲良しこよししてる気の抜けた連中より下に見られてるなんて……くそがあっ!!」
怒りが収まらないとばかりに机を勢いよく叩くリティア。一瞬ルインが全身を強ばらせてフェイに抱きついていた。
「……自分を買いかぶり過ぎだよ。ハッキリ言って、自己顕示欲の塊じゃないかアンタ。振り向いてもらうことに妬きになってないで、もっと頑張れよ。」
「うううううるさい!!私のことを何も知らないくせに!私が一体どれだけの間歯痒い思いをしたか知らないくせに!!」
フェイはわざとらしく大きなため息をつき、リティアを突き放すように正論と評価を下す。ハッキリ言ってリティアの行為はアピールと取って差し支えなく、フェイがいうように「努力が足りない」と見られても仕方ないものだった。
だがフェイの言葉も非の打ちようがないとは言えず、棘まみれだった。荒んでいる相手に投げ掛けるには配慮が欠けすぎている。案の定、火に油を注ぐ結果となりリティアは激昂していた。
「はあ……無駄なことしてるって気づきなよ。」
リティアの様子を面倒臭そうに傍観しているフェイ。さも自分が当事者でないと言わんばかりの興味の失せようである。
「ああもうこいつうううっ!!貴女に私の何がわかるっていうんですか!!私はただ振り向いて貰いたいだけなのに!パーティの一員として貢献したいと思う気持ちが無駄!だというんですか!!」
「無駄とは言わないけどさ……即死魔法使いに出し抜かれるなんて、余程人望がないんじゃない?」
「……待ってくれフェイくん、煽るのはそのくらいにしてくれないか。」
事態の顛末を察したラルクが横やりを入れ、二人を一旦落ち着かせた。フェイの自虐ネタと煽りが今の彼女にどう作用するかなど火を見るより明らかだろう。現にリティアは後ろにいたロイデに半ば組伏せられている状態であり、血管を隆起させ今にも噛みつきそうな顔をしていた。
「……私は即死魔法使いだ。それが何を意味するか、その頭でも概ね理解できるだろ?理不尽な事なんて沢山されてきたし、命を狙われたこともある。自分の境遇や即死魔法を排他的な目で見る論文を呪ったこともあるさ。でも私は折れずに冒険者を続けてきたし、私を受け入れてくれる場所も仲間もできた。それを自己顕示欲の塊みたいなアンタが言う、″気の抜けた連中″に数えられる筋合いはないよ。」
フェイは発言一つ取って畳み掛けるように言い放つと、リティアを鋭い目付きで睨んだ。彼女もリティアと同じように人の視線には敏感で、アグタールでは何度も理不尽な扱いを受けてきた。
それでも弱音を吐かずアグタールでは一人で、そこからルインと共に二人で勝ち取ってきた強さがある。
リティアがどれだけの苦労をして来たか知らないフェイでも、決して彼女のしている行動が正しいとは言えないことを知っている。というよりそうしたところで状況が進展しないことを理解しているのだから。
「アンタがそうやって喚いてる間にも、皆汗水垂らして頑張ってんだよ。折れたら最後、そこで終わり。」
「終わってない!私はこんなところで止まってちゃならないんだ!」
フェイの言葉に間髪いれず、はっきりとリティアはそう言い放つ。その顔は先程の怒りに満ちたものではあったが、その目は一片の曇りなくフェイを捉えている。
「じゃあさ、今回だけ組んでみない?」
そんな彼女の姿を見て、フェイらニヤリと口角を上げて微笑みそう言った。