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《即死魔法》は宥める

別作の方書いてたりして、本当に久しぶりの投稿になった……申し訳ないです!

「なっ……」

「ちょ……」


轟音を聞き付けた彼女達が外に飛び出して初めに目についた光景は、身の丈程ある大剣を振り回している薄い赤髪の少女が、歪竜の身体を斬りつけていたというかなり信じがたい状況であった。

橙色のチェーンプレートに金属でできた鎖の巻かれたスカートを履く彼女、その硬そうな装備や手に持つ武器からして【剣士】の類いであることが窺える。



「私だって殺れますからぁ!お願いします!お願いします!」



涙目で何かを乞いながら半狂乱状態で剣を歪竜ディストードに叩きつける少女。フェイ達を含む周囲は騒然とその光景を遠巻きに眺めているだけで、誰も止めようとはしていない。


「ちょ、ちょっと!それ私達の依頼の品なんだけど!?」

「……ううう煩いです!!!」


奇行を止めようとしたルインへ向けて、彼女が勢いよく剣を振りかぶった。少女は自分の背丈ほどある大剣を軽々と振り下ろしブオンという風切り音を響かせる。

ルインの叱責に聞く耳も持たず、まるで追い詰められているかのように見える。



「あ……」



ガンッ!!


呆然とするルインに向けて真っ直ぐに振り下ろされた少女の剣を、手に持つ短剣の刀身で受け止めるフェイ。表情には焦りと怒りに満ちており、歯を食い縛ってなんとかそれを止めていた。



「こいつ……ざっけんな!!!」


「え……ああっ!?」


普段口を開かないフェイも仲間が傷つけられそうになって黙っている訳もなく、両手で短剣を構えながら大剣を受け止めると、容赦なく少女の脇腹に向かって蹴りを繰り出して吹き飛ばした。



「きゃあ!!なっ……えっ……あ……」


蹴られた衝撃で尻餅をついた彼女が辺りを見回すと、ギャラリーの冷たい目線と怒りに震えるフェイ達の視線に晒されていることを察し、自分のしでかしたことを理解したようだった。



「……被害者はこっちだからね。」


彼女が理性を取り戻したことに気づいたフェイは、鬱陶しそうに呟き、険しい表情を浮かべる。続いて少女を睨み付けながら、まるで愚痴るかのようにそう吐き捨てた。


彼女は剣を目の前に振りかざされた恐怖で震えているルインを片手で優しく抱き寄せながら、もう片方の手で少女に短剣の刃を突きつける。


「ご、ごめんなさい!わ、私、えあ、何てことを……」


「取り敢えず処遇はこちらで決める。来なさい。」



少女は未だ状況が飲み込めないらしく、あたふたしながら必死にぐちゃぐちゃな頭を整理しているようだ。だがこのまま観衆の目に晒されるのを嫌ったラルクが少女を立ち上がらせ、弁明の言葉を与える余地もなく再びギルドの建物で落ち合うことになった。



───


「ごめんなさい!本当にごめんなさい!」



暫く落ち着いたところで少女が狂ったようにルインとフェイに謝りだす。落ち着いたことで罪悪感に苛まれたのか、少女の顔は青ざめきっていた。


「取り敢えず何か訳ありみたいだし、私もルインも怪我はしてない。ルインが許すなら私も大丈夫だよ。」


少女を宥めるように優しい声色で落ちつかせようと試みるフェイ。彼女は隣に座っているルインに片手を貸してあげながら、少女のみならずルインの事を安心させてあげようとしていた。



「怖かった……けど、うん。大丈夫。」

「ま、私達からはこんな感じで。処遇はそちらに任せますが、訳を聞いてあげてください。」


ルインの意向を聞いたフェイは頷き、次いで少女を慰めた後、責任者であるラルクに「後は任せる」と言って口を閉じた。


「……彼女はDランク冒険者の───」

「私から名乗らせてください、あの、その、私、リティアといいます。《オルディン》の冒険者で、破砕術士(ブレイカー)やってます。」


ラルクが少女、リティアの紹介をしようとしたのを止め、彼女自身が落ち着いた素振りで名と職業を明かした。卵色の瞳には生気がなく、やってしまったという後悔と罪悪感がのし掛かっている節が窺える。


「私はフェイ。こんな身なりだけど《魔術師》やってる。隣はルイン。私の仲間で……」


「……。」



仲間、と言いかけたところでリティアの目から涙が伝っているのを察したフェイは、そこで口を止めて彼女の肩に手を置いた。


「ああ、なんとなくわかったよ。一緒に組む人がいなくて……病んでたんでしょ?」


「……。」


フェイの考察に何も言わず、ただ涙を流し続けるリティア。どこか自分に重ねられる部分があるようで、宥めるように優しく頭を撫でながらフェイは話続ける。


「自分の実力を認めてくれる人がいなかったんだよね。私も同じような事を経験してるからわかる。」


「なにが……貴女に私のなにがわかるんですか!」


「私は《即死魔法》使いの魔術師でね。当然ながらパーティ面接には落とされ続けたからその気持ちはわかるよ。《即死魔法》というだけで自分の実力を推し量られて、人格も全部否定されて蔑まれて……それでも、」



リティアの激昂を受け止めながら、フェイは過去を思い出すように語り彼女を宥め続ける。リティアが話を聞く姿勢にあることを察したフェイは、息継ぎの時間を長くとって軽く呼吸を整えた。



「今、こうやってルインやラルクさんといった私の事を理解してくれる人達に出会えてる。何をもってリティアが苦しんでいたかまではわからないけど、ここは価値観で決めつけて話を蔑ろにするような人ばかりじゃないはずだよ。」


「……。」


リティアの目元により一層涙が溜まり、今にも溢れだしそうになっている。自分より苦しみ続けているフェイから諭されて、奇行に走ってしまったことを恥じているようだった。


「こんな私が相手で良かったら、リティアの話を聞かせてくれない?」



フェイの言葉に涙ながら頷くリティア。涙ながらも落ち着きを取り戻し、何度も何度も深呼吸を繰り返して漸く口を開いた。

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