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《即死魔法》は肯定される


こうしてルインもまた、C等級の冒険者として認められることとなった。パーティを組む上でも等級は重視されるポイントであり、依頼によってはより高い等級であることを求められることもある。


「でも《オルディン(この街)》はCランクから試験を設けてるんですね。元居た所は完璧にステータスで判断されてましたから、ちょっとびっくりです。」


現在C等級冒険者であるフェイが《アグタール》と勝手が違うことに驚いているようだった。今のルインのステータスでは《アグタール》の方式ではまだDランク冒険者の数値しかないことを思えば、ルインを認めたとは言えとんとんと肩を並べられたことにフェイが驚くのも無理はない話だ。


「確かに数重視の《アグタール(そっち)》ならではの区別方法だね。現にうちでもDランクまでの冒険者はその方式で括らせて貰っているし、とやかく言う筋合いもないのだが。」


ラルクは表情を微かに曇らせ、一度考えるような素振りをして見せる。彼があまり《アグタール》方式を好んでいないと言うことは火を見るより明らかであり、一人一人の冒険者達を彼なりに気遣っている様子が窺えた。


「冒険者と一口に括っても、それは多岐に渡る。一定のボーダーラインで区切るのは最も単純で簡単なやり方だが、例えばフェイくんのように《魔術師》でありながら訳あってMPが低かったり、強力なスキルや人間性に富んだ才能ある者を見つけることはできない。彼らを更なる高みへ生かしてやるのに数値(ステータス)で区別するのではなく、存在証明の場を与えるのがこちらなりのやり方なのさ。」


語るような口調でそう言った彼は、「存在証明なんてそんな大層なモノじゃないけどね」とすぐに照れ隠しのつもりか二人へ苦笑いを向ける。


「それに、僕のやり方が正しいだなんて思ってないよ。《アグタール》の方式だって優れた即戦力を見つけるには打ってつけだし、そもそも才能なんてある程度の部分はステータスカードが示す数値にしかならないからね。」


あくまで自分の方法は完全ではないと首を振るうラルク。実際フェイとルインでは同じC等級としての実力には差があることは言うまでもなく、少なくともルインは《アグタール》の街ではD等級冒険者として扱われるだろう。


実際彼女がC等級へ上がったのは、実力というより功績とラルク達からの後押しあってのものだ。



「あの……そういえば私をC等級のまま扱ってくれた理由ってなんですか?」


フェイが横入るようにラルクに問いかける。《アグタール》ではC等級冒険者だったとはいえ、ここへは流れ者として入ってきた彼女。魔術師としての能力はお世辞にも高いと言えないどころか低く、あまつさえ他人から疎まれる《即死魔法》使いである。


《アグタール》でやっていけなかった《即死魔法》使いの女の子。そんな彼女の心証は地に落ちているというのに、彼は何故試験を介さずC等級であることを認めたのかがフェイには分からなかったのだ。


「そうだね、《魔術師》としてのプライドを失わずに《即死魔法》と向き合い続けていることがわかったから……だね。最初に会ったときから君は人に嫌われることを恐れず、正直に話してくれた。それだけで十分信用に値するよ。」


「……。」


フェイはなにも言わず、ラルクから信頼されているという事実を噛み締めている。ルインを除けば初めて《即死魔法》を肯定してくれた人物であり、彼女(フェイ)という一人の少女の人格を受け止めてくれたのだ。



「あーフェイ、泣いてるわね。」

「……泣いてないよ、別に。」



ルインに茶化され、気恥ずかしそうにそっぽ向いて強がるフェイだがそんな彼女の眼は涙で潤んでおり、頬を赤く染めてルインを軽く睨んでいるようだった。



「そんな風に泣かれると、こっちまで気恥ずかしくなるな……」

「だから泣いてませんってばぁ!!!」



更にラルクも便乗してフェイを茶化し始めたことで感情を露にしたフェイは否定しながら泣き出してしまった。目元に溜めてどうにか抑えていた滴はぽとぽと溢れ落ち、大泣きというよりは静かに涙が頬を伝っていく。


「あー!マスターが女の子泣かしてますー!」

「そ、それは誤解だ!泣かせてなんてない!泣かせてないぞルリータ!待てガイナ、シャリテ!ああ広めに行くなロイデェェェェェェ!!」


遠巻きにその様子を眺めていたらしい彼の仲間とおぼしき白銀鎧の集団がおもむろに甲冑を脱ぎ素顔を露にすると、二人に向かって悪戯に微笑みギルドの建物の外へと飛び出していく。

彼らはかつて二人が巻き込まれた暴動を鎮圧してくれたラルクの仲間であり、その素顔自体は初めて見るもののフェイはその存在をしっかり覚えていた。


「ふ……二人とも、アレは僕の仲間であってね。少々面倒臭い面子だが、根は皆いい奴なんだ。だからとりあえず止めてくれないだろうか……一度こうだと決めると中々曲げないんでね。」


「……嫌です。泣かせたのは事実じゃないですか。」



フェイは最早泣き顔を隠すことなく、完全に被害者ぶって微笑み出していた。ラルクがバタバタと慌てて彼らを止めに行く姿を遠巻きに見ていたルインは、「意外と根深いのね……」と火種が自分に移らないよう終始無言を貫いているのだった。

話の区切りに合わせて章名を変更しました。次の章から再び話が移ります(。・ω・。)スミマセン!

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