《即死魔法》は共に歩む
暫くしてラルクとの会話を終えた二人は《オルディン》の街を宛もなく歩いている。鍛冶屋に行くという目的は後回しにしたのだろうか、一応和解したとはいえ二人の気分はだだ下がりである。
「……。」
「ひっ……」
周囲から突き刺さる鋭い視線を感じたルインが思わず声を上げ、恐る恐るフェイの袖を掴んだ。退院直後やここに来た時とは明らか空気も変わっていて、二人を目にした途端先程まで賑わっていたのが嘘のように静まり返る。
「……あれだろ?《即死魔法》だろ?」
「そういや奴隷を連れ回してるって話だったよな。」
「そうでもしないとパーティとか作れないんでしょ。ただでさえ足手まといなんだから。」
彼らはフェイを見るなり、二人に聞かせるような声でわざとらしくひそひそと話し始めた。アーノルドの影響を受けた冒険者がいたというなによりの証拠であり、フェイのことを、言い換えれば《即死魔法》をよく思っていないことの裏付けにもなる。
「くっ……ほんと好き勝手言って!」
「ルイン、私なら大丈夫だから落ち着いて。」
感情的に思わず口を挟みそうになるルインを宥めるフェイ。本来は逆の立場である筈なのだろうが、その辺りはお互いの性格の相違なのだろう。
何を言っても無駄だと端から切り捨てるフェイと、売られた喧嘩を片っ端から買う勢いで食って掛かり、なるべく多くの人に誤解を解いて欲しいと考えるルインと言ったところだろうか。
「《即死魔法》は使えない、そんなの冒険者の常識だよ。」
「あんたがそれ言っちゃおしまいでしょうが!!」
乾いた笑いで自分を否定しだしたフェイに対し、気でも狂ったのかと彼女を咎め怒るルイン。《即死魔法》使いの彼女が《即死魔法》を捨てたら一体何が残るのか─という問いをルインが投げ掛けようとしたが、フェイの表情を垣間見た彼女は何故だかその口を閉ざしたのである。
「……別に弱い訳じゃない。私にはこれしか無いことだってわかってる。」
何かを決意したかのように表情を引き締めた彼女は左拳を握りしめ、隣にいるルインがなんとか聞こえるかどうかというか細い声で呟く。いつもの気さくでちょっと不気味な薄ら笑いを見せることもなく、真剣に自分の価値を《即死魔法》に見いだしているようであった。
(本気で《即死魔法》と向き合ってるのね……。)
すたすたと先を行くフェイに歩幅を合わせながら、ルインは何も言わず隣にいる仲間の独り言に耳を傾けている。《即死魔法》の何が彼女を突き動かしているのかは解らずとも、稚拙なプライドや自尊心から生まれた付け焼き刃の理論のようなものではないことは明らかである。
(それにしてもなんで皆は《即死魔法》をあそこまで嫌っているのかしら……。)
ルインは自分達が倒したあの魔族との戦闘やラルクとのやり取りを思い返して考えるが、冒険者のことを殆ど何も知らない彼女は《即死魔法》が疎まれる理由がわからず首を傾げる。
現に二人が依頼を達成した背景、それ以前に自分を奈落から救いだしてくれたのは彼女の持つ《即死魔法》であり、恩人同然の彼女が周囲に否定されて貶される状況は見ていて耐え難いものだったのだ。
──だからこそ《即死魔法》が嫌われている理由が自分にはどうしてもわからず、フェイが理不尽に苦しんでいる姿に自分の心まで痛んでしまうかのようにひしひしと張り裂けるような痛みを感じていた。
(だったら……私がフェイに寄り添ってあげないとね。)
フェイの苦痛をわかってあげられない事に苦悩しつつも、ルインは拙くはあるがチームの仲間としてフェイを支えてあげようと決意する。
それが唯一、自分の出来ることだから。いつか彼女が一人で抱え込んだ際に折れてしまわぬように、共に歩む決断をしたようだった。
《即死魔法》は自分を助けてくれた誇りある魔法なのだからということを胸に刻み、誇りをもって自分の意思で歩き出す。
「……で、何処に行こうとしてたんだっけ。」
「鍛冶屋でしょ?ちょっと考え込みすぎよ。」
色々あってか忘れてしまっていた目的地を聞いてきたフェイに、苦笑いでそう返しつつも遠回しに彼女を労るルイン。解決したとはいえ先程のヘイトスピーチに巻き込まれたことで疲れも溜まっているのだろう。
「ほら!一緒に行くわよ!」
ルインはそんな彼女を元気付けるかのように、少し前へ出るとくるりと振り向き無邪気に微笑んで見せたのだ。少し大人びてはいるが、まだ幼くいたいけな子供のような笑みを浮かべる彼女に釣られてフェイも柔らかい微笑みを返した。
「ちょっ……早いよルイン。」
フェイは前へ前へと歩くルインの手を取って力任せに引っ張られているものの、その表情は仕方ないなと言いたげな苦笑いであり彼女の歩みを止めることなくなすがままに引き摺られている。
(そっか、これからだもんね。)
一人の冒険者であるルインの小さくも頼もしい背中を見つめながら、フェイは既に半分引き摺られたような状態で感慨深く物思いに耽っていたのだった。
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