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《即死魔法》は終息する。


「な……俺が《即死魔法》に膝をついて……」


未だ信じられないとその場で座り込むアーノルド。正確には膝ではなく尻餅をついているがそこは言葉の綾と言うものだろう。



「言っとくけど別に《即死魔法》なんか使ってないよ。君は“盗賊(シーフ)″でありながら近接戦で“魔術師(ウィザード)に負けただけ。」


「く、くそう……」



フェイから淡々と告げられる事実に先程の怒りなどとうに消え失せ、アーノルドは頭を項垂れさせ意気消沈していた。だが事実とはいえ、フェイの言葉は容赦なく彼のプライドをズタズタに引き裂いていく。もう何も言い返せないとばかりにアーノルドは俯いて、溜め息同然の小言を吐くことしか出来なかった。



「でも久し振りにいい運動にはなったかな。」

「俺は……手負いに……喧嘩振って負けたのか……。」


痛む右腕を庇って微笑む彼女から告げられる更なる事実にいよいよ後ろめたさを感じたアーノルドはガックリと肩を竦め、立ち上がろうとしていた身体をその場にとどめて力を抜く。負け犬だと高を括った手負いに完膚無きまで蹴り伏せられるというのは、それはそれは精神的に堪えるだろう。



「それも年下の女の子に……」



更に加えて相手は冒険者と言えども女子供である。“手負いの低ランク(?)魔術師の女の子相手に集団で辱しめ、気に食わなかったからと接近戦を仕掛けた挙げ句腕っぷしで負けた“などと万が一広まれば、最早プライドなど振り切れて彼が明日から冒険者を続けていられるかの方が心配である。



「……なによ。」


今度はルインからの目線に気圧されているアーノルド。彼女からの問いにも答えられず、後ろめたさからかわざとらしく視線を逸らすことしかできない。だがそんな彼も何かを決意したのか、それとも何かをハッと思い出したのか、おもむろに立ち上がってフェイに向き直る。



「……本当にすまなかった。ここずっと冒険者としての等級が上がらなかったことに嫌気が差して、迷惑をかけてしまったようだ。」


「貶される事には慣れてる、私はいいからこの子に謝って。乱暴したでしょ。」



アーノルドは言われるがまま、次にルインの方へ身体を向ける。だが姿勢を低くして目線を合わせたりはせず、あくまで彼女を一冒険者として扱い深々と一礼して見せた。



「手を挙げるようなことをして申し訳なかった……!」

「本当に……怖かったんだからね!!」


謝った彼にそのまま噛みつく勢いでルインが睨み付けるが、その目には涙が流れており言葉通りかなり恐怖を感じたことが窺える。



「とまあ、アーノルドは二人にけじめをつけた訳だが君はどうなのかね?《解体屋》のジェイド。」


事態の終息を見たラルクの言葉に続いて、彼の仲間とおぼしき白銀の鎧に身を包んだ素性の見えない冒険者二人に取り押さえられた状態のジェイドが姿を現した。抵抗虚しくと言った感じか、歯を食い縛って未だジタバタしているようである。


そもそも事の発端を辿れば彼のせいであり、今回のヘイトスピーチ事件にも一枚噛んでいる。同じパーティのメンバーとして、そして間接的な加害者として彼もけじめをつける必要があるだろうとラルクは考えていたのだ



「……見損なったぜリーダr、アーノルドォ!プライドを捨ててこんな奴に謝ったな!もうテメエに《解体屋》の席はねえからな!!」


ジェイドはリーダーと言い掛けたものの完全にアーノルドを見限ったらしく、これからは彼とも決別するつもりでいるようだった。アーノルドの方も大事を引き起こしておきながらこっぴどくやられた事を後ろめたく思っており、何も言わず頷いているだけであった。


そして未だ信じられないとフェイに対して「こんなやつ」呼ばわりである。それにアーノルドが一発蹴られただけで頭を下げる意気地無しと落胆している部分もあるのだろう。



「……挨拶は済んだか?この罪は重いぞ二人とも。ステータスカードの剥奪も十分にあり得るから覚悟しておくことだ、連れていけ。」


白銀の冒険者らは何も言わずラルクの命令に従い、二人を何処かへと連行していった。その様子を三人は見届けた後、事は済んだといつものテラス席にまで戻って腰を落ち着けることにしたのだった。



「──今回の件については本当に申し訳なかった。いち速く騒動に気付いて止められればよかったものを。」

「いえ、今回の火種は私にもありますし……それに助けて頂いてありがとうございます。」


ラルクがギルドの不手際だとフェイに深々と頭を下げるが、彼女はそれを“自分の定め“だと割り切って助けてくれたことに礼を返した。


「それにしても……あの二人はどうなるのかしらね?」

「それは裁判の結果次第になるが、差別に暴行にデモ行為と罪は多いからね。内容によっては“権利剥奪“や莫大な借金を背負うことになるかもね。」


彼らのの起こした罪の大きさに思わず竦んでしまう二人。今回の事は決して他人事などではなく、自分達も気を付けなくてはならないと引き締め直される。更にこれから更なる中傷に巻き込まれかねないとフェイはこの街に対する警戒を強めていた。

もう一本投稿です(。・ω・。)

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