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《即死魔法》は差別される

「……なるほど。《解体屋》の知り合いですか。」


不気味なまでに作られたような笑みを浮かべる男に気圧されながらも、初対面の相手に自分の素性を見抜かれた理由を考えた彼女は表情を崩すことなく吐き捨てるようにそう言った。


元より二人が《オルディン》に滞在していた時間などほんの僅かなものでしかない。前に活動していた《アグタール》ならいざ知らず、冒険者の情報の出所は限られている。それにまともに会話をした相手などギルドマスターのラルクと治療所のエリアス、そして《解体屋》を名乗る男だけであり、その中でも彼が腹いせにフェイ達の心象を下げようと周りの冒険者に言いふらしていると考えるのが最も自然であるだろう。


「ああ、一応彼も僕のパーティメンバーだったんだ。その伝で色々ね。今や君のことはある程度の冒険者には知れ渡っているだろう……なんせ僕もそれに加担したんだからね。」


「……。」


どうやら前に出会った《解体屋》の男と面識はあるようで、それも同じパーティメンバーだという。フェイはというと、「まあそんなものか」と特段驚くこともなく無言で話を聞いている。


まさか報復をしに来たのかと考えるフェイであったが、男の振る舞いは二人を好奇の眼差しで見つめているようであり、表面上敵意らしいものは窺えなかった。



それに万が一報復に襲われたとしても、《即死魔法》使いであることがバレている以上は周囲からの助けも見込めないだろう。



「こっぴどくやられた挙げ句《即死魔法》使いのガキがなんたらと喚いていたあの姿……なんとも惨めだったよねぇ。」


「何が言いたいんですか。」



これ以上そんな話を聞きたくもないと会話をブチ切るフェイ。彼女の問いに対して男はやれやれと肩を竦めて呆れたような仕草をして見せる。


「そこの女の子を僕の(パーティ)に引き入れたいんだ。彼女の才能を見込んでの事だからさ、当然呑んでくれるよね《即死魔法》使いちゃん?」


男の提案を馬鹿馬鹿しいと考えていながらも、フェイは肯定も否定もせず無言を貫いていた。言うまでもないと彼女もまた呆れたようにそっぽを向き、これ以上の会話を拒否するつもりのようであった。



「……」



言うなれば、この後はルインに一任するつもりのようだった。出来うる限り彼女の考えを尊重し、彼女の進みたい道もあるという示しのつもりでもあったのだが、ルインの表情からしてその結果、考えは火を見るより明らかであった。



「……お断りよ。ふざけないで。」



同然だとでも言わんばかりにハッキリと切り捨てるようにルインは誘いを断った。そればかりか「ふざけるな」と完全に彼を敵視しており、鋭い目付きで睨み付けている。幾ら街での生活に不慣れなルインとはいえ自らの素性を明かさない男にホイホイ着いていくわけもなく、更に痛みを分かち合った仲間を貶されているのもあってか彼女の怒りは限界まで突き抜けかけていた。



「うーん、そっかあ。」


男の顔が更に不気味なものへ歪む。確かに表情は笑ってはいるものの、その奥底には自分の頼みを断られたというショックや《即死魔法》のクセにという当て付け同然の怒りが込められているようにも見える。



男はなにかを叫ぶかのように一度大きく息を吸った。



「皆さんー!ここに奴隷を無闇に引き連れて仲間面している最弱の《即死魔法》の冒険者がいまーす!人権侵害ですよー!人権侵害!」



男の突拍子もない言葉に周囲がざわつく。《即死魔法》を貶しながら、奴隷だの仲間面、無理矢理と根も葉もないことを大声で周囲に広め大きく煽動する。



特に潔白を大事にする《オルディン》では人権侵害はタブーともなっていて、そういった意味でこのヘイトスピーチは二人にとって最悪なものだった。証拠も何もないでっち上げではあるが、フェイの印象を著しく下げるには最適で最低な行為でもある。



「ちょ……あんた!」


ヘイトスピーチを聞き付けた民衆に晒され焦ったルインが男に反論しようと迫るが、逆にその手を握られ大きく上げられる。


「彼女は被害者だ!奴隷制度を廃止した手前、彼女のような水準未満の少女が冒険者として働かされるものがあっていいのか!否!断じて否であろう!」


何処かに台本でもあるのだろうか、彼は一切言葉を詰まらせることなくペラペラと話続けている。民衆に訴えかけるように熱意の籠ったそれは、ハリボテであるが強固な壁のようにフェイに迫ってくるのである。



「そうだ!全ては人に迷惑を掛けることしか出来ない《即死魔法》なんてものがあるからだ!誰からも愛されず、脚を引っ張ることしか能のない雑魚の《即死魔法》使いが奴隷を買うなんていう禁忌を犯していいものか!罪に罪を重ねる悪でしかない《即死魔法》使いなど、いっそのことここで断罪すべきではないのか!!」


「……。」


男の身勝手な演説にも、フェイは無反応だと言わんばかりに無言を貫く。キレて無いという訳ではないが、ここで激情に任せて男に殴り掛かったところで更に印象を悪くしてしまいかねない。そもそも人権侵害を訴える発言であるにも関わらず《即死魔法》を貶して悪役に仕立て上げるスピーチ自体が矛盾しているのではないか……とも思うが。



彼の中ではきっと、《即死魔法》使いは人ですらないのだろう。



「……言われっぱなしでいいのフェイ!!流石にこのまま進んじゃ不味いんじゃないかしら!?」


周囲に人が集まり、ついには「そうだそうだ」という称賛や肯定の声が聞こえてくるようになった。まだその声は少ないが、そのうち民衆が波に飲まれでもしてバッシングの嵐が飛び交ってくるのではないかという不安に襲われている。



「……離しなさいよっ!!」


ルインはじたばたして必死に手を振りほどこうとするものの、固く握られていてびくともしない。



「現に彼女は全ての悪事を認め、なにも言い返してこないじゃないか!無言は後ろめたいことがある何よりの証拠であり、疑わしきは罰せよという言葉もある。」


男の言葉のなにかが合図にでもなっていたのだろうか、武器をもった男女3人が民衆の中から武器を持って現れた。その中の一人は、前に出会った《解体屋》の男である。


「ヒヒヒ。こうなっちゃ何も出来ないなぁ。」

「……。」


《解体屋》の男はニヤリと口角を上げ、フェイに向けて悪意ある笑みを浮かべる。どうやら最初から二人を陥れるつもりで今回の騒動を起こしたようだ。



「すぅ……ではただいまより《オルディン》の執行官、アーティが諸悪の根元たる《即死魔法》を罰s」


「そこまでだ。寄ってたかって一体何をしているんだお前たちは。」



だがこう言った演説は大抵すぐに鎮圧される。高々と処罰を言い渡そうとしていた彼の言葉は遮られ、なんの騒ぎだと聞き付けたギルドマスターのラルクが瞬時にフェイと《弓術士》の男に割って入ったのだ。

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