《即死魔法》はナンパされる
──そうして二人は色々あった買い物談義と休息を終え、次の目的地へと歩きだしたのだった。太陽が既に真上に登り、空から《オルディン》の街をあますことなく照らしている。周囲は市民や冒険者が行き交い、数の暴力の街と唄われていた《アグタール》に引けをとらない程である。
「今更だけど重くない?」
「平気よ!前のゴブリン人形と比べたらこんなの訳ないわ。」
ルインは両手で《腹裂け熊》の縫いぐるみを抱えているようで、そのサイズも相まって彼女が少し無理をしているようにも見える。それでも彼女は一切の苦言や愚痴を漏らすこともなく、年相応……にしては少し幼いかもしれない少女らしい振る舞いをしている。
「あのさ、一応これも武器……のつもりなのよね?」
「まあ……そのつもりで買ったかな?」
ふと、縫いぐるみの感触を確かめていたルインがフェイにそう聞いた。武器という言葉が似合わない造形とつぶらな瞳、おまけに素材は柔らかい綿と、全くもって戦闘に持ち出すものではないだろうとルインは未だ困惑してしる。
彼女が《人形傀儡師》であることを鑑みても明らかにそれは武器と呼ぶには明らか柔らかく、そして無力すぎる。腹がぐぱあと大きく開いていることを除けば、それは単なる熊の縫いぐるみである。
「だからかじ屋で一度打ってもらおうかと考えていたところだけどね。」
「かじ……や??」
聞きなれない単語に首をかしげるルイン。街での暮らしに全くもって適応できていない以上、こうなることも必然であり仕方のない事ではあった。
「……火事?ファイア?」
「……燃やしてどうする。」
「じゃあ家事……?私達って暫く宿暮らしよね?」
「人形の手入れは家事に含まれないでしょ……多分。」
ルインの解答にひとつひとつ丁寧にツッコミを入れるフェイだが、同時に「まだまだ教えることがありそうだ」と頭を抱えていた。
「鍛冶屋……まあ武器や防具なんかを造ったり強化したりする所なんだ。素材に使う鉱石なんかを高温で溶かしたり打ちつけたりしてより強固な一品に仕上げる……まあそんな所さ。」
フェイが鍛冶屋の概要を彼女なりに噛み砕いて伝えている。先輩らしくなるべくわかりやすく教えようとはしているが、その本質や細かいところまでは彼女でも流石にわからない。
「ふーん、それって結局燃やすってことじゃないかしら?」
「燃や……うーん、どうなんだろ?私も殆どお世話になったことないしな。」
「結局燃やすんじゃないか」と返ってきたルインの言葉を完全に否定しきれないでいる。あまり武器に頼ってこなかったフェイはその名称や用途こそ知っているものの、利用する頻度自体はほぼ皆無に等しいからである。
「ねえキミキミ、そこの君。」
二人が鍛冶屋について話していた時、唐突に横から声を掛けられる。その声の主は笑顔の似合う優しい顔つきをした青髪の高身長の男性であり、ラルクのものと酷似したお洒落な狩人服や背中に納められた黒の長弓から彼が《弓術士》という職業であることが窺える。
《弓術士》は文字通り弓矢を使って獲物を射る《狩人》の弓特化版のような職業だ。近接戦闘特化の《盗賊》や《暗殺者》と似て否なるものであるが、度々これらを併合しその一つを名乗ってるという冒険者も多い。
「もしよかったら僕とパーティを組まないかい?」
「え……私?」
男は名乗ることもせず、ルインに目線を合わせてにこりと微笑んだ。とても綺麗で美顔とも言える顔ではあるが、その不自然さにルインは訝しそうにフェイの方を見上げている。
「そうそうキミキミ。ああ、等級なら心配しなくてもCランクはあるし、採取でも討伐でも思うがままだよ!なんなら手取り足取り教えてあげることだって出来る!」
「……突然なんですか。」
「勧誘だよ勧誘。才能ある少女にはそれ相応の舞台というものが必要だろう?」
初対面でありながらグイグイ距離を詰めてくる様子に、思わず割って入るフェイ。端から見れば彼の姿は完全に不審者であり、素性も知らない、ましてや明かそうともしない不気味さにフェイは警戒している。
「フェイ……怖いよ。」
「すみません。私達急いでいるので勧誘ならお断りします。」
ルインがフェイの左手を握ったことで彼女が怖がっていることを察したフェイがそそくさとその場を後にしようとする。
「まあまあ、そう言わずに話だけでも聞いてほしいな。」
「痛っ……!!」
だがそんな二人を引き留めようと男はフェイの右腕をグッと引っ張ったのだ。細身の身体からは想像出来ない力がまだ万全ではないフェイの腕に負担を掛けていく。
「離してっ……」
「まあ最も君はどうでもいいんだけどね。《即死魔法》使いちゃん。」
男の予期せぬ発言になにかを感じ取ったのか、ピタッと抵抗する力を緩めるフェイ。彼女を切り捨てた男の顔は不気味にも笑みを絶やすことなく、仲間に引きいれたいルインのみならず、「どうでもいい」と吐き捨てたフェイにも向けられており、その奥底の見えない姿に二人は恐怖を感じていた。
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