《即死魔法》は自責に駆られる
太陽が昇り始めたのを境にフェイは再びお世話になっている治療所へと戻っていた。流石に重症患者の姿が突然消えたとなれば騒ぎになるのも当然であるため、早い内に自分の無事を知らせたかったというのもある。
「……聞くまでもないと思うが、気分はどうかね?」
「ええおかげさまで。一つ言えば右腕が上手く動かせないくらいです。」
治療所を取り仕切っているエリアスから容態を聞かれ、特に問題はないと返した。彼女の右腕は《種蒔き悪魔》との戦闘で受けた損傷が他の部位と比べても激しく、数日経った今でも激痛が走り上手く動かせないでいる。
「でもこんなんじゃ、ルインに会わせる顔が無いな。」
フェイはボロボロになった右腕をもう片方の手で押さえながら、苦笑いを浮かべそう呟いた。自分勝手な行動で仲間を危険に晒した挙げ句怪我を負わせてしまったという後ろめたさと、先程のルインの呟きから感じられた覚悟の強さに果たして自分が応えられるのかという不安が大きかった。
これまでパーティを組むこともなければ誰かと一緒に依頼をこなすようなことをしてこなかった自分が何を偉そうに後輩を指導しようとしているのか。足りない自分の半端な知識がかえってルインを傷つけることになってしまったのでは、と今回の依頼を通して考えていた。
「彼女は真っ先に君の心配をしてくれていたがね。ここに運び込まれた際は、自分の怪我も省みず一番仲間のことを考えていたよ。てっきり同じことを考えているものだと思っていたが、君はそうではないのかね?」
「……。」
そんなエリアスの問いに対し、フェイは何も答えられないでいた。ルインは常にフェイの様子を気にかけ、自分の動きに合わせて魔族を牽制し続けていた。多少やり過ぎな所は見受けられたものの彼女は自分の身の危険を省みずに戦ってくれていたのだ。
対して自分は魔族との撃ち合いに固執し、周りの事など殆ど考えず自分のペースだけで突き進んでしまっていた。ルインが一人で逃げられないことを逆手にとって無理矢理戦わせてしまったのではないかという罪悪感と自分の卑怯さに、今になって嫌気が差しているくらいである。
──仲間の事を一番に考える。そんな単純かつチームやパーティで活動する者にとって無くてはならないものがフェイには足りなかったのである。少なくとも彼女がルインの事を思っていれば、ここまで深刻な傷をお互いに負うことは無かった筈だ。
「あの子も入院している間「私のせいだ」って何度も繰り返していてね、ずっと涙目で謝っていたよ。」
「え……」
ルインがそこまで大きな重責を抱えてしまってたのか、とフェイは驚愕しその場でがっちりと固まっていた。
「えっと、ルインが……あの子が私と同じベッドで寝ていたのってもしかして……」
彼女は震える唇を必死に動かし、表情を固まらせたままエリアスに問いかける。
「あの子の要望だよ。提案と許可をしたのは私だが、一緒に寝たかったという彼女のなりの頼みでもある。」
「やっぱり……!!!」
エリアスから告げられた言葉に確信を持ったフェイは、こうしちゃいられないとばかりに病み上がりの身体を引き摺りながら、彼女のいる部屋めがけて駆け出す。
「──うぐっ……!!」
しかし魔力消費の激しい身体は疲労し、彼女の意思に反して中々前へ進めないでいた。ガクッとその場に前のめりになって膝を突いたフェイの身体をエリアスが支える。
「大丈夫ですからっ!!あのくらいの距離なら一人でも行け……」
「そんな身体で彼女と対面するつもりなのか君は!!」
無理矢理身体を起こして立ち上がり、離せと言わんばかりにもがくフェイに向かって一喝するエリアス。その後に響く静かな威圧感に再び固まることになったフェイは治療所の地面に手をついて呼吸を荒くしている。
「無茶苦茶なのはいつものことです。まだ万全ではないけれど、自分の無事を伝えたいんです。例え私が無理してでも、ルインに心配をさせたくないんですよ!」
「……そうか。」
フェイが放った言葉を受け止めたエリアスが彼女に頷いた。地面に手をついた状態の彼女に片手を差しのべ、何を思ったのかそのままフェイの身体を引きあげたのだ。
「ならしっかりと、ここにいる彼女に無事を伝えるべきなんじゃないか?こんなところで這いつくばっていても何も変わらないだろう。」
「……ルイン!?」
エリアスがふと指差した方向を見ると、なんとまだ早朝であるというのにも関わらずルインの姿があったのだ。