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《即死魔法》は絶体絶命


「───ッ!!」


フェイはすぐさま左手で自分の右腕を掴み身体にまとわりつく蔓を引き抜こうと引っ張るが、複雑に絡まっていて身体の中で生えたそれを強引に引き千切ることは出来ず、かえって激痛に苦しめられている。


「ならっ……うぐぅ!!」


腕の肉を引き裂かれんばかりの痛みに悶え苦しみながら再び右腕に巻き付いた蔓を握り、《デス》を放った。しゅるしゅると彼女の全身に向けて伸び続けていた蔓の動きがピタリと止まり、一瞬のうちに枯れて黒ずんでいく。


「フェイ……そんなことして大丈夫なの!?」


ルインがフェイの様子を目にし、後退りつつも心配そうにそう言った。もしかしたら自分の魔法のせいでそのまま動かなくなってしまうのではないか、という不安が魔法について無知な彼女にはあったのだ。



「流石に自分の魔法で死ぬなんていやいや……ふふっ。中々面白い冗談だね。」

「こっちは心配してるのよ!?」


フェイは乾いた笑いを浮かべながら、ルインを安心させるためにそう返した。無理に大丈夫と返したところでルインの不安を和らげるためのわざとらしい振る舞いを見せたのだ。


幾ら安心させるためとはいえ本気の戦いで軽口を叩く彼女の姿は決して誉められたものではないが、必要以上の不安に駆られるルインを安心させるにはこれしかないと彼女が考えた結果でもある。



『グオオオオオオオオ!』


魔族が醜悪な口を張り裂けんばかりに開き咆哮を上げる。翼を広げ、全身を大きく反らせながら叫ぶその姿は二人に不快感と威圧感を与える。身体にはフェイの武器で斬られた傷こそあれど、全くもってその勢いが衰えているようには見えなかった。


一方でフェイは既に全身ズタボロであり、腕に巻き付いた枯蔦や傷だらけの身体を引き摺っていて立つのもやっとなくらいだ。ルインは痛手こそないものの、武器を失い丸腰である。そんな状態で戦いを続けるなど、ハッキリ言って無謀である。


だがそうわかっていても、引き返せるタイミングなどとうに逃がしているのだ。それに彼女達も自分の意思でここに立ち、目の前で叫び続ける諸悪の根源と正面切って対峙している。とっくに逃げられないことは二人が誰よりも分かっていることだ。


「らあっ……!!!」

『オ″ア″ァ″ァ″ァ″ァ″ァ″ァ″!!!』


フェイの斬撃と魔族の殴打がそれぞれ互いの肩にぶつかり、両者が吹き飛ばされるというかたちで間合いから離れた。


運良く深くまで刃が通ったのか魔族の左肩から血が吹き出し、地面にボタボタと音を立てながら滴り落ちている。初めて見えた攻撃の成果、彼女の攻めが無駄ではないことの証明に他ならないものだったが、それを素直に喜べる程の余裕は既にフェイにはない。



「……ッ!!」



魔族の拳が鎌の刀身を掻い潜り、彼女の右肩にクリーンヒットした。その衝撃は成人に満たない少女が受けるにはあまりにも強すぎるもので、フェイは激痛に怯んで武器を手放してしまったのだ。折れてはいないだろうが、痛みに苦しめられて動かすこともできない。



痛み分け……というには彼女が圧倒的な不利を被ってしまったようだ。フェイはそれでもとまだ無事な左手で鎌を持ち、片手でも戦い続けるつもりでいるようだ。



(無茶よ……左手まで使えなくなったらもう無理じゃない!)


遠巻きに状況を把握していたルインもフェイの右腕が使い物にならなくなった事を察しているようで、激痛に悶えながらも必死になって戦う彼女を前に立ち尽くしていた。


明らかに状況は悪い。フェイのもうひとつの武器……言わば主力である《即死魔法》を使う左手までもが使えなくなればその時点で八方塞がりである。それでもなおフェイは一筋の好機を探るために武器を封じて鎌を振り回しているのだ。その姿は誰がみても酷く痛々しいものだろう。



(フェイは戦ってるのに……私はッ!!)


だがルインはそれをわかっていながら動けないでいる自分が悔しくて堪らなかった。武器を振るう腕どころか五体満足でありながら、武器がないせいで戦えない自分が惨めでどうしようもない。




苦しんでいる仲間を前にして、なにも出来ない自分が。



(なにか……なにかできないの!?)


冒険者としての責任をここにきて強く感じたのか、まだ経験の浅い少女の頭でどうするべきかを考えるルイン。ここに来るまで事前に準備されたものでしか戦えなかった彼女に出来る術は何なのか。


(今の私は《人形傀儡師(マリオネッター)》……!!今の私には腕があって……手があって、指がある!!)


ルインはフェイと出会う前の、自分が人形傀儡師としての才を得た時まで遡っている。あの時はどうやって能力を得たのかを、そしてフェイと戦ったときはどうしてたのかと。



「ここにあるのは、《デビルシード》の残骸と……」


彼女は必死になって周囲を見回し、自分が出来ることを探していた。この洞窟の最奥には、彼女の言うように《デビルシード》やプラントの死骸が至るところに転がっている。その他、既に寄生されていたらしい判別不能な生物の亡骸が山のように積み重なっていた。


他にはフェイが持参した、先程の二人で換金の為に集めた《デビルシード》らがパンパンに詰まったバッグが落ちているくらいである。



(……。)



何を思ったのか、ルインは《デビルシード》でパンパンになったリュックに手を入れたのだ。



『グオオオオオオオオ!』


「危な……っ!!」


その一方で、叫び声を上げながら繰り出される魔族の強引な連続攻撃をすんでのところで回避したフェイが、その場で姿勢を崩した。限界が近い身体を支えられる力も殆ど残っておらず、重心がブレたことで背中から引っ張られるように地面へ倒れこんだ。


「ひっ……!?」


自分の限界を感じ取った彼女に、少しずつ悪魔が迫る。その力の差と醜悪な見た目をハッキリと捉えてしまったフェイは恐怖でその場から身動きひとつとれないでいる。



彼女はここにきてハッキリと死に直面したのだ。『死』というたった一文字が恐怖という感情になって重く、鮮明に彼女の脳裏に過る。


魔族はその恐怖を掻き立てるように一歩ずつ近づき、一定の間合いに入った刹那姿勢を低くして勢いよくフェイに飛び掛かかった。


「────!!!」


フェイは目を瞑り、襲い来るであろう痛みと衝撃に備えることしか出来なかった。うちひしがれるような痛みを予想していた彼女だが、不思議と痛みは走らなかった。もしかしたら知らぬ間に即死でもしたのかもしれないと思うほど拍子抜けするようなものだった。



(呆気ないものだな……まあこんなものかな。)


いつまで経っても来ない衝撃に自分の死を悟ったフェイ。だが右肩は未だ痛み、脚の震えやぎゅっと瞑った目、そこから溢れる涙まで現実味があり、妙に生々しかった。



「──のよ!」


だが聞こえるはずのないルインの声がすぐ近くで聞こえる。一瞬夢とも思えたその言葉に続けてポンと左肩を軽く叩かれたのがわかった。



「……え?」

「なーに縮こまってんのよ!情けないわね!」


フェイが目を開けると、なぜか魔族が《デビルシード》の大群に襲われているという奇妙な光景と、彼女の様子を情けないと見下ろして苦笑いするルインの姿がそこにあったのだ。

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