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《即死魔法》と異変の元凶


「明らか人……じゃないわよね?」

「人……じゃないどころかモンスターだろうね……。」


死体の塊に鎮座する″人″を見た二人はその見た目に気圧され、敵だと断定してなお迂闊に近づけないでいる。ルインはフェイの後ろで縮こまって怯えてしまっていており、フェイも頬に汗を浮かばせている。二人とも恐怖からか武器を握る手が小刻みに震えてしまっているようだ。



彼女達が対峙しているソレを″人″と呼ぶにはあまりにも不気味で、異様な存在だった。背には竜人の如く大きな翼を生やし、獣のように鋭い鉤爪が両手足の指先からそれぞれ綺麗に揃って伸びていた。


身長は二メートル程と大柄な成人男性くらいの大きさしかないものの、顔のパーツは牙を覗かせた裂けた口だけで構成されており、頭部には闘牛のように太く黒光りする角が刺さっている。



「……もしかして魔族かな。」

「え、魔族……!?」


フェイは″人″から目を逸らさず、武器を持つ手の力を強めながらそう呟いた。彼女自身これまで出会ったことがなく情報が乏しいものだったが、人間寄りの姿と周囲の惨状を見てそうかもしれないと考えているようだ。


暴力の体現とも言われ、誰彼構わず襲いかかる人の姿をした化け物。程度に差はあれどそれらは総括して″魔族″と呼ばれ、冒険者は勿論民衆にも広く認識されている。魔族を討伐する依頼も時折発行はされるものの、フェイの手には届かないランクの冒険者がパーティを組んで挑むようなものばかりだ。



「……でもなんで魔族がこんなところに?」

「流石にそれはわからないな……。」


暫く考え込むフェイの服の袖を掴んだルインが不安そうに問いかける。それに対してフェイは首を振って返す事しか出来なかったが、目の前の魔族を前にして怖じけるどころか、姿勢を低くして武器を構え今にも走りだしそうな体勢を取っている。



その顔つきや姿勢は、魔族を見て何かを確信したかのようだ。


「わからないけど……アレが元凶ってことはわかる。」

「元凶って……この依頼はEランクなのよね!?」


今回の《デビルシード》大量発生の原因が目の前の魔族にあるのではとフェイは睨んでいるようだ。ルインもその異質さにはなんとなく気づいており、明らかに話が違うと狼狽えている。


「イレギュラーだった……か。なんにせよこの可能性に気づけなかった私が悪いな。」


そんなルインの様子を見て、自分の危機管理能力の低さを実感したフェイはため息をついた。彼女自身、これまで依頼をこなしていくなかで自分の実力以上のモンスターに出会ったことが全く無かった訳ではない。


ギルド側もある程度の視察をし、モンスターの分布を調べた上で冒険者のランクに応じた依頼を提供しているが、時間が経って移り変わる自然の世界においてそれが完全であるわけがないことはフェイも分かっており、それを見越して依頼に挑んでいた筈だった。


それも暫く放置されたような場所であれば尚更イレギュラーに備えて置かなくてはならないことをルインに促しておいてこのザマである。



(私の……せいで。)



フェイは自分の不注意でルインを危険に晒してしまったことを後悔し、悔しそうに唇をぎゅっと噛んだ。


この依頼において嫌な兆候を感じていたフェイ。《デビルシード》の大群を前に何度も撤退を考えた。だが危険を承知でそれをしなかったのは、ルインにとって初めての依頼だからである。


まさか魔族を相手にするとは思わなかったものの、そんなエゴが邪魔をした結果、諦めて街に返る選択を渋って彼女を危ない目に遭わせてしまっている。



「ルイン、街までの道はわかるよね。」

「……もしかして一人で戦うつもりなの?」


フェイの言葉にルインは自分が何を言われているのかを感じとり、彼女の顔を見上げてそう聞き返した。フェイは頷くわけでも首を振るうわけでもなく、視線をルインから魔族へと移した。


幸いなことに魔族はその場から動かず死骸の山の上に座って二人を眺めているが、いつ襲いかかってくるかもわからない。長く時間をかけるだけ更に危険に晒してしまうことになる。


「このまま済みそうにないなら、やるつもり。」

「フェイも逃げようよ……!」


ルインはぎゅっとフェイの服の袖を掴み必死に引っ張ろうとしているようだが、体格も力量差もあってびくともしない。


「先輩には責任ってものがあるからさ。まだルインには解らないかもだけど……」

「……!!」


そう言って片手で鎌を振り回すフェイの様子を見たルインは、彼女がこの魔族と戦うつもりであることを察してしまったようだ。より袖を掴む手の力を強め、「行っちゃ駄目」だとフェイを呼び止めようとする。


フェイのランクとステータスは恐らく魔族と呼ばれるソレと対峙するには足りてない。本来最上位クラスの冒険者がパーティを組んで討伐に当たるような相手であり、差はあれどその認識自体はそれほど大きく変わるものではない。


そんなものにCランク成り立ての中堅冒険者が一人で戦ってどうなるかなど、冒険者一日目のルインでも想像に難くない結末だった。


「待ってよ……ねえ!!」

『ズググググ……』


ルインが必死にフェイを留めようと引っ張る。その際の声を聞き取ったらしい目の前の魔族がゆっくりと二人を見下ろした。顔一面に広がる大きな口を開き、そこから延々と涎を垂れ流し続けている。





『ズグオォォォォォォォォォォォォォォォォ!』



魔族の様子を観察していたフェイが武器を前に出した瞬間、魔族の口から放たれた洞窟一帯を揺るがす程の轟音が、壁を崩す勢いで響き渡る。

数日ぶりの投稿になりましたすみませんっ!

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