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《即死魔法》は回収する

極彩色の羽根が輝きを維持し、地面で接した圧力に従って織られている。《デス》を受けた巨鳥の身体はピクリとも動かず、そこから″花″が咲くこともなければ新たな″種″が生まれることもない。



文字通り《デビルシード》の生命線は断ち切られたのだ。


「終わった……の?」

「ひとまずは、かな。」


フェイは片手で鎌を回しながら片足ですっと着地し、一息着いた。ルインは初めての依頼とあって心身共に消耗しているのか、その場に座りこんでしまっていた。


「ん、これ。」

「ありがと……。」


ルインは差し出された回復薬を一気に飲み干し、呼吸を整えて立ち上がる。フェイの言葉通り、まだ完全に終わった訳ではない。奥にはまだ《デビルシード》の群れが築かれている可能性もあり、それを根絶やしにしないことには依頼を達成したとは言えない。その可能性を全て排除して初めて依頼が成されるのである。


「で、まだ狩らなきゃならないの……?」

「コツは掴んだし後は私がやっておくよ。ルインは回収をお願い。」


もう疲れたと言いたそうなルインに指示すると、フェイは背負っていたリュックを地面に下ろした。ルインはその意味を理解しこくりと頷くと、周囲に転がる《デビルシード》の死骸をリュックの中に詰め込み始める。


「これならすごい金額になりそうね……」

「基準は100ケテルでプラントの数次第で増額……確かに凄いねこれ。」


プラントをリュックに入れていたルインがそう漏らし、報酬の多さに目が眩む二人。長年ソロで活動してきたフェイからしてもここまでの報酬には中々手が届かなかったため、彼女もルイン程顕著ではないもののギルドへの帰還を楽しみにしているようだ。


「……こら、プラントばっかり詰め込まないで《デビルシード》もちゃんと入れて。」

「ば、バレた?」

「バレないわけないでしょ……私も手伝うからしっかりやってよね。」


フェイはプラントの追加報酬に完全に持っていかれていたルインを軽く叱ると、一緒に《デビルシード》の死骸をリュックに詰め始めた。ルインはあせあせとした様子で「ごめん」と謝りつつも、結局は《デビルシード》とプラントを交互に入れていた。


フェイがそれに気づかない筈もなく、「気持ちは解るしいいや」と苦笑いしながら半ば投げやりになって《デビルシード》だけを詰め込んでいたのだが。



「──よし一通り済んだね。奥進もっか。」

「はいはい、解ってるわよ。」


《デビルシード》の死骸がリュックの半分を占め周囲が綺麗になった頃、フェイはリュックを背負い立ち上がってそう促した。ルインは重い腰を上げるようにゆっくりと立ち上がるが、その表情はほんの少し不貞腐れているようにも見える。彼女の中はすっかり帰還ムードであり、これ以上の戦闘も面倒臭くてやりたくないらしい。


二人は洞窟の更に奥に進むが、《デビルシード》が襲いかかることもなければ物音ひとつ聞こえてこない。



フェイは壁や天井まで見渡して奇襲されないように警戒を強めていたが、ルインはフェイの後ろに着いて行きこそすれど、何もなくて退屈そうにしている。



初めての依頼だと目を輝かせていた先程の彼女は何処へ行ったのか。冒険者の本質を理解しきれておらず、面倒な事を避けようとするルインは冒険者としてまだまだ幼いと言えるだろう。


「結構奥まで歩くのね……。」

「逆に言えばあっちまで湧いてたってことだし、警戒はしときなよ。」


フェイの忠告に「はーい」と気だるそうに一言返すルイン。そこからやる気は感じられず、ルインは変わらず周囲の変わり映えしない洞窟の壁を眺めていた。



(……集中が途切れてきてる。無理もないがちょっと危険かもな。)


当然そんなルインの様子などフェイにはお見通しであり、鎌を握る手の力を強めながら周囲に気を配っていた。気を抜けばモンスターの奇襲に掛けられるかもしれないからだ。


冒険者は常に危険と隣り合わせの職業である。モンスターと戦う直接的な危険だけでなく、一度外に出れば帰るまで警戒と準備を怠ってはならないとまで言われている。


見知らぬ土地で無防備になれば予備知識のないモンスターからの奇襲を受ける可能性があるばかりか、地理を把握していなければ当然迷子になる可能性だってある。そこで遭難した挙げ句知識がないせいで毒のあるものを食べてしまい助からないという最悪のケースがあるくらいだ。


もしここで二人がはぐれでもしたら、恐らくルインは何も出来ない。ルインにはそういった認識や、冒険者としての責任感などがまだまだ足りていないようだ。


だがそれをここで一々叱ったところで覚えられるものでもないかとフェイは敢えて何も言わず、先行して周囲を警戒している。彼女の分まで自分が頑張らなくてはと視野を広くして見回してた。



『ギチチチチチ……』



──ふと遠くの方から歯を鳴らしたような奇怪な鳴き声が響き渡る。二人は顔を見合わせ、まだ撃ち漏らしがあったかと洞窟の更に奥へと駆け出した。


「フェイ、これって!?」

「まさか……いやいや冗談キツいわ。」


洞窟の最奥に広がっていた光景は、中心部で山積みになっていたモンスターの死骸から幾つも生えた″花″が種を生み出しているというものだった。


だがそれ以上に、死骸の山のてっぺんに深緑色の肌の″人″が座っており二人を睨んでいたのが何よりの問題であったのだ。

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