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《即死魔法》は発動する

二人は襲いかかってくる《デビルシード》を近づかせまいと片っ端から弾き飛ばす。そのヘイトの殆どが巨鳥に向いているお陰で先程よりも少ない数であり、仕留め損なったモノはフェイの《デス》でカバーすることで比較的余裕をもって対処していた。


だがそれで数こそ減らせてはいるものの、彼らに対する有効打が得られていないのも事実であり、このままでは巨鳥(デコイ)を失い押しきられるのも時間の問題だった。


「ルイン!ゴブリンを噛ませて!!」

「こっ……こう!?」


フェイからの突然の指示にあたふたするルインだが、丁度ゴブリン人形に飛び掛かってきた《デビルシード》を弾かずにその胴部分を噛ませた。


その結果、《デビルシード》の牙はゴブリン人形の硬い鎧に阻まれた挙げ句空中で浮遊している性質上地に足が着かず離すに離せない状況へと追いやられていたのである。


『ギャギ……』


人形に噛みついている《デビルシード》は鎧に牙を削られながらも必死に噛み切ろうと突き立てている。どれだけやっても硬さが違うため牙が折れるのが先になるであろうが、それでも噛みつくしか攻撃手段がなくどうにもできない。


「で、それでどうすればいいのっ!?」

「口の中に剣を突き刺して!」

「え、無理よそんなの!!」


ルインは慌てた様子でフェイからの指示を無茶だと言い張った。《デビルシード》の牙はゴブリン人形の胴部分をがっちりと噛みついており、その状態で口の中に剣を通すのはかなり難易度が高く、武器の扱いに慣れていないルインにはほぼ無理である。ましてや操り人形であるゴブリンの手に握られているせいで余計に難しい。


「じゃあ……弾いちゃって!壁に押し込んでもいいよ!」

「わ、わかった!」


ルインは言われるがままゴブリン人形を壁に向かって放ち、そのまま硬い岩肌に勢いよく当てた。バキッと何かが割れる音と共に壁と鎧に押し込まれた《デビルシード》の殻がひしゃげ、あらぬ方向に曲がった状態で絶命した。


「ナイスアタック!その調子でよろしく!」

「了解!フェイもしくじるんじゃないわよ!!」


横で鎌をぶんぶん振り回しながら《デビルシード》を切り裂いていたフェイがルインのすぐ側に付いて功績を褒める。たった一匹仕留めたという事実であるが、ルインにとっては初めて仕留めた獲物である。


フェイに褒められたことで心なしか表情も柔らかくなったルインは更に自信に満ち、今では軽口を溢す程の余裕が出来ていた。


だがあくまでも真剣さは残したまま、集中力を切らさぬようにすぐさま表情を引き締めた。



(……全く、頑張り過ぎなんだから。)


というのもすぐ横では巨鳥(デコイ)に近づいてまで、次々と《デビルシード》やプラントを仕留めるフェイの姿があったからだ。強引に巨鳥の身体からプラントや″花″の茎を引き千切り、″種″を壁に叩きつけて強引に処理している。


飛び掛かってくる《デビルシード》には鎌を横に振るって口の中を斬りつけたり、槍のように刃を突き刺すように振り下ろして絶命させていた。


明らかフェイとルインでは頑張りようも違うが、フェイは苦言を一切溢さないどころか、その表情はどこか笑っているようにも見える。だが本人はその事を自覚していないのか黙々と《デビルシード》の群れをほぼ一人で狩っていた。


(あんなの見せられたら、私も頑張るしかないじゃないの。)


そんな彼女を見てため息をつきながら、自分もせめて足を引っ張らないようにとルインは人形を手繰り寄せる糸をピンと張った。


衝射(ショット)!!」


そのまま先程の要領を活かした人形による突進で《デビルシード》を確実に仕留めるルイン。フェイのように一気に相手する事ができない分、一匹一匹慎重に数を減らすことに努めていた。


『ゴシャア!!』

『ギチイイイイイイッ!!』


数が減り出したのを察知した《デビルシード》の幾つかは、自身から茎を生やして《デビルプラント》へと進化を遂げていく。ミミズのように細長くうねうねとした茎を荒ぶらせ、鋭い牙を持ってフェイや巨鳥に飛び掛かってくる。


「っ!!」

『キェエエエエエエエエエエエッ!』


フェイは鎌を盾に見立てて防げるが、巨鳥の身体には容赦なく《デビルプラント》の牙が次々と食い込んでいく。ここからプラントは″花″へと成長し、″種″を撒いて《デビルシード》を増やすという悪循環を生み出しているようだ。


(ともかくキリがないな。耐性さえなければ《デス》で仕留められるか?)


暴れ回る巨鳥に巻き込まれないように退きつつ、プラントを捌きながらフェイは考えていた。まず《即死魔法》は必ず対象を仕留められるなどといった都合の良い万能な魔法ではない。対象の魔力量やサイズなどが関係し、どちらも大きいほど魔法は通りづらい。


生命活動を維持する器官を全て《即死魔法》で侵食しつくせるかということ、そしてもうひとつは即死に対する耐性の有無が魔法の是非に関係している。


その耐性は文字通り魔力量、そして死に対する感情の抵抗値である。フェイはMPこそ低いものの、死の淵から這い上がってきただけあって常人より遥かに即死に対する耐性を持っていると言える。


逆に出会った当初のように諦めの感情が強かったルインは即死耐性が全くなかったと言えるだろう。


またモンスターの中でも特に高位のモノは幾度なく生きるか死ぬかの瀬戸際で戦い続けているだけあって即死耐性を持っていることが多い。


それを知っているフェイだからこそ、ここで《即死魔法》を放っていいものか悩んでいた。下手に変な方向に刺激を与えるのも良くないだろうとひたすら鎌を振るいながら考えている。



だが───



このままでは状況が変わらないのも事実である。フェイは鎌を振るうのを一度止めてバックステップをとって離れる。《デス》を撃つために左手を前に構えつつ、本当に撃っていいのか悩んでいるようだった。



「撃たないの……?」


一通り《デビルシード》を狩り終えたルインが不安そうにフェイに問いかける。その目は巨鳥の方を向いており、ぽつりと「可哀想」と呟いていた。


巨鳥は既に数十分と長いこと寄生されていることもあって、まだバタバタと暴れ回っているものの動きは鈍く衰弱しているようにも見えた。フェイが強引に抜き取ったプラントの首や噛まれて出来た傷痕から大量に出血しており、極彩色の羽や足元は血で濡れている。


「ク……クキェェェェェ……。」


巨鳥の鳴き声が弱々しいモノへと変わる。長いこと耐えたようだが遂に限界を迎えようとしている。


「ここで死んでも、繁殖の苗床にされるのかな……。」

「わからない……でも苦しそうだよ……。」


フェイはここで巨鳥が息絶えたとして、《デビルシード》が巨鳥(デコイ)を利用して繁殖してしまうのか否か考えていた。少なからず動物の死骸は長い時間を掛けて土へと還る。その際植物の肥料としてあの巨鳥は申し分ない素材になるだろう。その考えでいくならば、《デビルシード》の苗床として死後も利用され続けるのだろうという結論へ至った。



そしてルインの言葉が決め手となり、フェイはかざした左手に魔力をぐっと込める。どうであれこのまま《デビルシード》に苦しめられつづけるのは痛々しくて可哀想だというルインの気持ちはフェイにも理解できた。


「安らかに眠れ……《デス》。」


フェイの左手から黒い靄が放たれる。それは一直線に巨鳥の身体へ纏わりつき、その身体に生えていた″花″は靄を吸い込むと苦しそうに痙攣し、やがて枯れていった。


「クキェェェェェ……」


「……ありがとう。」


巨鳥は《デス》を浴びたことによる違和感を感じ、発動者であるフェイを睨み付ける。言葉は解らずとも彼女の感情を読み取れたのか、目を瞑ってゆっくりと身体の力を抜いた巨鳥の身体がまえのめりになり、そのまま地に伏した。

後書きによる補足

《デビルシード》の説明文における補足


プラント:《デビルプラント》のこと。


″花″:プラントから更に進化した花。種を周囲に撒き散らす。


″種″:花から生み出される《デビルシード》の幼体のようなもの。牙を持ち襲いかかる前の個体を指す。概ね《デビルシード》と混同しても問題ない。

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