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《即死魔法》は休息する


全力疾走でなんとか洞窟の入り口へたどり着いた二人は、すぐ側の岩場の影に飛び込むように身を隠して休息を取ることにした。フェイは現在肌を晒しており、先程受けた傷をルインに治療してもらっている。


というのも先程、《デビルプラント》の噛みつきで肩から出血していたのをルインに指摘され、彼女の不安な顔と先日の約束も相まって渋々上半身の服を脱ぎ手当てしてもらうことにしたのだ。



「い″っ″─────!!!」

「牙が皮膚に刺さってるもの、無理ないわ。」


激痛に声を上げるフェイに構わず、ルインは肩に薬液を塗っていた。僅かに掠めた程度であるにも関わらず肩の傷は大きく開いており、細かくはあるが目視出来るほど大きい牙の欠片が刺さっていたのだ。


「念のために解毒草の露も塗っておくわ。」

「毒は多分大丈夫だと思───あ″あ″あ″あ″っ″!!!」


刺さった牙をどうにか抜き取った後、ルインは傷口に容赦なく解毒草から染み出る液体を塗りつけた。そのあまりの染み具合に悲鳴を上げるフェイ。ルインの荒治療によって散々痛め付けられたのか、彼女は既に涙目である。


「何事も構えすぎるくらいが丁度いいのよ?その傷だって実際放置してたら危険だったし。」

「うう……」


ルインの言葉になにも言えずに、後は黙々と手当てを受けるフェイ。彼女に包帯を巻いてもらいつつ、回復薬を調合した金色のドリンクをぐっと飲み干した。


「ルインも飲む?魔力回復にも適してるし。」

「ええ、ひとつ頂こうかしらね。」


フェイから手渡された回復薬の蓋を開け、何の躊躇いもなくそれを口にするルイン。思いもよらぬ味に目を見開いていたものの、飲む勢いは止まらない。


「甘い……回復薬って苦いものだと聞いてたけど……。」

「《スイートビー》の蜂蜜を使っているみたいだからね。効能もちゃんとあるから心配はいらないよ。」


ルインはそのまま回復薬を飲み干し一息着いた。手当てが終わったフェイも服を羽織り、怪我をした肩の調子を確かめるかのように軽く腕を回している。


「で……どうするの?明らか一筋縄じゃ行かない相手だし、なんなら引き返すのも手だと思うわ。」

「んー……。」


休息のお陰で体力を回復した二人は、依頼の処遇について話し合っていた。回復は一通り済んだものの、また正面切っての無策で挑めば先程のように返り討ちに遇うだろうということは二人ともわかっている。

実際フェイも怪我をしているし、何より自分達の手に持つ武器が効かないというのが致命的だ。


Eランク依頼と思って野放しにされ続けた結果がこれかとフェイはため息をつきながら、そして同時に《デビルシード》の群れに対して微かな違和感を覚えていた。


(放置してたにしても数が多すぎる……あの洞窟が《デビルシード》の生育に適してたから?それとも捕食者がいないから?)


フェイは《デビルシード》の大量発生の原因について考えているところだった。あの洞窟は光は射すものの暗闇に近く、《デビルシード》系統以外のモンスターの姿は全く見られなかった。当然あの洞窟をテリトリーとしていて、かつ捕食披捕食の関係がしっかりしていればそんなことはあり得る筈もなく、彼女の中にあった違和感は徐々に不安へと変わっていく。


(《デビルシード》の大量発生は外部から引き起こされた可能性が高い……!?)


一通り考えた彼女が導き出した結論は、《デビルシード》が何者かによって持ち出された結果大繁殖してしまったというものだった。あの群れによって洞窟内の生態系が破壊され、奴らののさばる占有地へと変わり果ててしまったのだろうとしか考えられなかったのだ。


「だとすればかなり不味いことになってるな……誰かが意図的に生態系を……ブツブツ。」

「フェイ……?」


フェイの独り言に不安を感じて声を掛けるルインだったが、当の本人は一人考察に頭を巡らせているため反応を見せない。


「でも何のためにそんなことを……ブツブツ……それに《デビルシード》を増やして一体何になる……ブツブツ……。」

「大丈夫?フェイ?」


二度目のルインの呼び掛けにも反応しない。フェイは考え事に夢中なようだった。


「これは一旦ギルドに報告し……ブツブツ……最悪ここで依頼を中断してm──!!!」

「ねえ!フェイ!!!」


ルインはとうとう痺れを切らして、怒鳴り付けるようかの如くフェイを呼んだ。一方でフェイは「え、なに……?」と言った風にオドオドしながら恐る恐るルインの方を向いている。


「依頼、このまま続けるの?それとも退却するの?」

「ああ、退却した方が良いのは間違いないけど……調査次第になるかなぁ……でもなぁ。」


ルインの問いにフェイはかなり歯切れ悪くそう答える。二人の考えとしては間違いなく退却した方がいい。だがそれができない、正しくはそうさせてくれない理由があった。


例えここで退却したとして、ギルドにきちんと調査を依頼して脅威度を引き上げてくれたとしても、周囲の冒険者からすれば″Eランクの依頼すらこなせなかった冒険者″という認識もある意味事実であり、その事に対する心ない言葉にルインまでもが晒されることになる。


依頼失敗というのがどれだけ冒険者に重くのし掛かってくるのかを知っているフェイにとって、そう容易く依頼を放棄することは出来なかった。だがそれ以上に周囲から浴びせられる言葉の暴力をルインまでもが受けるということが何よりも耐えられなかったのだ。


(でもこのまま突っ込んでも勝機どころか生きて帰ってこれるかも怪しい……多少時間を掛けてでも殲滅するしかないか。)


フェイは洞窟と外を行ったり来たりしながら時間を掛けて確実に仕留める方向で考えたようだ。とは言えその選択はリスクが高いのは元より、二人の体力だけでなく精神面にも大きな負担を与えかねない。


先程のルインの動きを見ても《デビルシード》達に有効なダメージを与えられていないため交互に動いて負担を分け合うという選択もとれず、一緒に行動する分確実にフェイの負担は大きくなる。


はっきり言って無謀な選択だが、フェイは自分の身を粉にしても戦うつもりのようだった。その根底には、ルインにとって初めての依頼だから成功させてあげたいという気持ちが強かったのだ。



(そうだな、ルインには《デビルシード》を操って貰うのも手か……ん?)


そう考えていたフェイは微かに聞こえる足音を感知し、岩陰から洞窟の方を睨む。


爪のような形をした鋭く巨大な嘴が特徴の大型の鳥が丁度洞窟に入っていく姿が捉えられたのだ。大きさはパッと洞窟の天井に届きそうな程で、約4.5メートルくらいだろうか。羽は退化しており、陸上で活動していることが窺える太い足がしっかりと大地を踏みしめていた。


外見はオオハシの顔と駝鳥の身体を合わせたような姿をしており、目はまるで外付けされたグルグルとした楕円形の黄色いボタンのようなものだったり、陸棲であるにも関わらず常に極彩色の羽をバッと開いているなどかなり奇妙だ。


「な……なんだありゃ。」

「ん?どうしたのフェ───ッッ!?」


呆気に取られているフェイに乗じて岩陰から顔を出して件の巨鳥を眺めるルイン。当然ながらその奇天烈な姿にビックリして吹き出しそうになる。


「な、なにあれ!?なんなのよ!?」

「わ、わからない。多分だけど《デビルシード》を食べに来たのかな?」


洞窟に迷わず入っていく極彩色の巨鳥を見届けた後、なにかを思い付いたのかフェイは立ち上がった。


「え?どうしたのフェイ?」

「どうしたのって……今がチャンスだから《デビルシード》狩りを再開しようかなって」

「……正気?」


フェイの言葉に正気を疑うルイン。確かに無理もないが、あの鳥の活躍によっては《デビルシード》も大きく数を減らすことになるかもしれない。

それが先程まで勝算の見えなかった彼女達にとって、依頼を達成できるチャンスになることは間違いないだろう。確かにあの鳥は奇妙ではあるが、捕食者だと断定すれば利用しない手はないだろうとフェイは背負う鎌に手を掛けていた。


「とりあえず後の事は後で考えるから!やるだけやってやるさ!」

「え、ちょ、フェイ────」


フェイは今が好機と言わんばかりに、我先にと洞窟に向かって走り出した。

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