《即死魔法》は仲間想い
「──ほんと歯切れの悪いスタートになったものだわ!嫌になっちゃうわね!」
いざこざを強引に解決した二人は、《オルディン》の街を宛もなく歩き回っていた。フェイは既に頭を切り替えて周囲を見回していたが、ルインの方はまだ腹の虫が治まらないといった感じで愚痴を溢していた。
「ごめん、私が不甲斐ないばかりn」
「そういうのはナシッていったでしょ?大体さっきのはアイツがガンつけてきただけじゃないの。」
自分のせいだと謝るフェイの言葉を遮ってすぐにそうじゃないと返すルイン。そこにフェイが更に「ごめん」と返し謝罪に謝罪を重ねる結果になってしまった。
「あんたさあ……もう少し自我を持ちなさいよ。」
「自我!?そこは自信とかじゃなくて……?」
そんな不憫な彼女を見かねたルインがやれやれと苦言を漏らす。フェイは自らを卑下し、他人の評価に流され過ぎている。それは人付き合いの経験が皆無なルインでもよくわかるほど色濃く表れていた。
「《即死魔法》使いだから~っていう理由で散々な目にあってきたからなんだろうけど、あんたから一切意思が感じられない……第一人から貶されることに慣れすぎてるのよ。」
フェイは考えるような素振りをして「そっか」と口に出した。確かに言われてみれば沸点がかなり高く、貶されようが反論しそうになったこともない。彼女からしてみれば貶されることなど当たり前だと自分を明らか卑下しており、それこそサンドバッグ同然に罵声を受け流す人形のようだ。
「いい?あんたは別に良くても私は嫌なの。目の前で仲間を馬鹿にする輩が許せないのよ。絶対に見返して片っ端から吠え面かかせてやるんだから!」
「ま、まあ落ち着いて。」
流石に片っ端から喧嘩を吹っ掛けるのは困る、とルインを宥めるフェイ。気持ちはありがたいがそれでルインまで傷つけられる方が彼女は許せなかったのだ。そして目をつけられるということがどれだけ面倒かを理解しているフェイは、可能な限り穏便に済ませたいという気持ちの方が強かった。
「……。」
自分だけが傷つくだけなら別に構わない。だがもし自分のせいでルインにまで刃が向けられるというなら、その時は自分が手を染めようとまで考えていた。ルインはまだ冒険者としてスタートを切ったばかりの子供であり、謂れのない言葉の暴力に晒されていい年齢ではないのだ。
「ルイン、チームとしての依頼頑張ろうね。」
「ええ、勿論やってやるわよ!」
フェイはひとまず彼女を悪い空気から脱するためにわざとらしくそう声を掛けた。突拍子のないタイミングで大きく空気を変えたかったことのは言うまでもない。だが特に不審に思うこともなくルインは意気揚々とそう返事して見せた。
フェイもにこやかとルインに微笑む。実際二人の会話(特にルインの愚痴)は周囲からあまり良く思われないことを理解していたフェイはなんとか話題を逸らすことが出来たようだと安堵していた。
「チーム推奨の依頼ってどんなものかしらね?」
「パーティ推奨依頼と枠は変わらず、寧ろ狭まってると答えるべきかもね。人数が多いに越したことはないし、簡単なものが多いよ。」
ルインがふと気になったのか依頼がどういうモノなのかを聞いてきた。フェイが言うようにパーティ推奨の依頼より質の低いものが殆どだが、一人でこなすには手が足りないだろうとギルド側が定めたものがチーム依頼となっている。
基本的に数の多い低級モンスターの討伐依頼や、一人で持ち歩くには苦戦する物品の取得などが多く、複数人で分けると思うと心許なくそれも三人で分けるには足りないくらいの金額にしかならないこともある。
「宛はあるの?私は詳しくないからわからないわよ?」
「見たことない名前のモノばかりで私もちょっとわかんないな。」
外に貼り出されている掲示板の紙から依頼を探す二人だが、中々苦戦している様子だった。《アグタール》周辺では見られなかったモンスターの名前や聞いたこともないような素材名などを手探りで探すのは骨が折れる。フェイからすればルインの初陣ともあって、なるべく手軽に済む依頼を探したいところだった。
「Eランクモンスターの《デビルシード》の大量発生……2人以上の冒険者での討伐を推奨か。」
「Eランクっていうと私の今の等級より下よね?」
フェイが掲示板に貼り出されていた紙を剥がし、ルインが背伸びしてそれを一緒になって眺めている。EランクモンスターはDランクの冒険者であれば楽々仕留められるレベルのものが多く、特段脅威ではないと判断されたモンスターがカテゴリに含まれている。
「うん、Eランクは無能力に等しいから初依頼にうってつけだと思うよ。」
フェイもランクを見て簡単だろうと言った。その根底はこれまでの経験と《アイルミラージュ》というDランクモンスターを倒したことによる自信だった。《アイルミラージュ》が強いというよりも、能力持ちであればDランクにランク付けされることを知っている彼女からすれば、Eランクなど地に堕ちているも同然だったのだ。
「それじゃあその依頼にしましょ!冒険者生活スタートよ!」
チーム推奨依頼を無事見つけることができてルインも満足したのか、年相応の子供らしい反応を見せながら先陣切って走り出した。




