《即死魔法》は稼ぎたい
──ラルクに散々驚かされながらも、無事に冒険者登録を済ませた二人。彼女達はギルドの建物を出てすぐ側にあるテラス席で休息を取っていた。
勿論すぐにでも《オルディン》の街から出て依頼をこなすことは出来るが、そのための準備も兼ねてこれからどうするかについて話しているようだ。
「とりあえず《オルディン》周辺の簡易マッピングも兼ねて散策……もとい低級モンスターの討伐が主になるかな。正式な依頼ではないから金額も少ないけど……。」
パンを片手にそう提案するフェイ。彼女の言い分は今まで《アグタール》の冒険者としてやって来た経験をそのまま流用したやり方である。住み慣れた《アグタール》とは勝手も違って動きづらいだろうと考えた彼女は、依頼という形ではなくまず周囲の視察を中心に活動しようと考えた。
「でも普通に依頼をこなした方がお金にはなるのよね?フェイのやり方だと、高く見積もっても精々バッグと手に納まるサイズの利益にしかならないんじゃない?」
「確かに……そうか。」
ルインはというと、冒険者として活動する以上お金が必要だと依頼をこなすように提案する。
これまでフェイがやってきた方法はあくまでもソロで活動する冒険者向けの小銭稼ぎのようなものであり、チームを組む上でそれだけが収入源というのは少し心許ないんじゃないかと感じていた。
それにルインが言ったように、低級モンスター1匹の素材の値段などたかが知れているし、フェイですらほとんど見かけなかったDランク以上の、それも大型のモンスターの死骸を全身丸々持ち運ぶというのは非現実的である。
「それにフェイが稼いでる間、私はなにも出来ないじゃないの。」
「あ……確かに。」
おまけにフェイのやって来た事は《即死魔法》で息の根を止めたモンスターの死骸を換金するというやり方であり、ルインはそこに全く手が出せない。下手に傷つけてしまうとかえって価値が下がってしまい、最悪引き取ってもらえないなんて事もあり得る。
「折角チームを組んだのだから、私を頼ってほしい。」
「……そうだね。チームで出来る依頼を中心にこなしていこうか。」
結局二人の意見はチームで出来る依頼を達成し、その報酬を資金源にしようということで纏まった。
「チーム依頼ならソロのものより広く取り扱ってるから、探せばあるはずだよ。パーティ依頼より質は劣るけどね。」
フェイは元々ソロで活動していた為、依頼をこなして生活するというよりは換金してその場しのぎと貯金に費やしていた。人数が増えれば当然ランクの高い依頼を受注できるようになるし、達成したときの報酬も比にならない。
だがそこには当然危険も付き纏い、依頼中に起きた事故や行方不明の捜索費用云々含めて、ギルドでは《ソロ》《チーム》《パーティ》の3つの括りをつけていた。
「えーと……?取り敢えず4人以上で《パーティ》と認められるということでいいのよね?」
「うん。前衛、後衛、支援の三竦みに安定役の1人を足した4人体制で正式にパーティと認められるみたい。そうなればもっと高いランクの依頼も受けられるね。」
《パーティ》と認められる為の条件、それは4人体制であることだった。まずは先陣切って戦いに身を投じる前衛。剣士や盾役が該当し、モンスターの注意を惹いて後衛や支援を守る役目がある。
次の後衛はフェイのような魔術師や弓術士など遠距離から敵を狙い打つ役割である。三つ目の支援は後衛と混同されることもあるが、回復魔法や支援魔法を使って味方の安定性を高める役割を持つ。
この3つ(2つ)に更にもう1役いれた三竦みをカバーする人をいれた組み合わせこそ《パーティ》である。万が一、三竦みのどれかが崩れても簡単に瓦解しない為のいわば自由枠である。
「そう言われると私達ってどっちも後衛よね……。」
「……そうだねえ。」
暫く考えた後のルインの言葉によって、二人は思わず苦笑いすることになる。正直な話、《パーティ》メンバーの組み合わせは自由であり、前衛4人という脳筋パーティや魔術師界隈の集まりといった偏ったものも少なからず存在するため、二人が後衛といってもさほど大きな問題ではないのだが……。
「守ってくれる前衛の子も探して見ない?」
「私も求人はしたことないんだよね……それに今じゃなくてもいいんじゃない?」
ルインは新しく仲間を探さないかと提案するも、まだ冒険者としてデビューすらしてない自分とこの地に慣れていないフェイに加えて誰かを入れるという選択は簡単にとれるものではない。その人の命を預かり、冒険者としての責任をもつその選択はまだしなくていいんじゃないかとフェイに諭され、ルインも納得した。
「じゃあここで依頼を達成しながらパーティを作る!これでいこうじゃない!」
「よし、そうしようか。」
二人して納得する結果になったようで、互いに笑みを見せる。満面の笑みを見せるルインと、やや固いながらも微笑むフェイ。笑い方に違いはあれど二人のやる気は大いにあった。
「─おいおい、パーティを作るだなんてふざけたことを言わないでくれよ《即死魔法》の魔術師さんよ。」
だが、突如そんなやる気を大きく削ぐような言葉が投げ掛けられた。フェイの顔から瞬時に笑みが消え、声のした方を見上げるように睨み付けている。
「おお、怖い怖い。もしかして雑魚魔術師がこの《解体屋》に喧嘩売るつもりなのかい?」
黒いマスクで口許を覆った男がマスク越しにでもはっきりわかる程の笑みを浮かべ、小馬鹿にしたようにフェイを眺めていたのだ。
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