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《即死魔法》は受け入れられる

フェイは男の言葉に「やっぱりか」と瞬時に目付きを鋭いものへと変えた。そこにはギルドの一員として認められた喜びの感情はとうに消え失せ、何を言われるだろうという不安が垣間見える。というより何を言われても耐えるつもりだと堅く表情を引き締めているようにも見えた。


「……はい、そうです。」


──いや、何を言われるかはわかっていた。仮に《即死魔法》使いであることを勘ぐられている以上、ここで違うと嘘をつくのはかえって心証が悪くなる。その証拠もハッキリとではないがステータスに現れており、《魔術師》を公言しているフェイにはどうやっても避けられない障害だった。


「随分素直に答えてくれるんだね。」

「私にとっては結局、《即死魔法》は切っても切れないものですから。」


フェイはあくまでも相手からの印象を悪くしないように努めることしか出来ない。《即死魔法》に誇りを持っている訳でも何でもないが、彼女は自ら言う通り自分を生かせる個性はその《即死魔法》にしかないとすら考えているくらいである。


「これまで《即死魔法》使いだとハッキリ言えるヤツはいなかった。皆が《即死魔法》を恥じ、あくまでも普通の《魔術師》であることを貫き続けた。中には他の役職へ転職しようと考えるものまでいたが、そんなヤツはまあウチには要らないと切り捨てたよ。」


受付の男はハッキリと切り捨てるようにそう言った。フェイ自身も彼の言葉が嫌と言うほど身に染みてわかる。


何故なら《即死魔法》はハズレの魔法。習得しただけで魔術師としての成長が止まるばかりか、発動すれば周囲を巻き込みその魔力や素質を殺すそれは、無能や最弱と言った言葉を通り越して最早外法扱いされていた。


「私はその気持ち、解らなくもないです。」

「そうなるとあっちでは相当苦労したんだね……。」


フェイの強い意思を感じた彼は、彼女に同情の意を見せて苦笑いする。実際フェイは運悪く《即死魔法》を習得してしまった魔術師の連中から白い目で見られることも多く、酷いものでは「こんな魔法を習得してしまったのはお前のせいだ」と謂れのない罵倒をされたこともある。


それでもフェイは彼らに歯向かうようなことはせず、そればかりか理不尽を押し付けてくる彼らには決まっていつも無言で罵詈雑言を受け止めていた。


「でも《即死魔法》ってそんなに悪いものなの?」

「文字通り……良いものではないよね。事実MPは下がってるんだし。」


彼女の苦労を垣間見たルインの言葉にフェイはそう返した。実感こそないものの、フェイのMPは二年前と比べて大きく下がっている。《即死魔法》は言うまでもなく能力に関して実害があり、他の魔術師から目の敵にされるのは仕方のないことだと彼女は割り切っている。


「それでもフェイのMPがそんなに低いようには思えないのだけれど。」


ルインは先日の戦闘を思い出してそう言葉を漏らした。フェイは《人形傀儡師》たる彼女の魔法を打ち破って勝利したり、上空を飛ぶ巨鳥を撃ち落として見せたりとそのポテンシャル自体は決して低くないはすだと考えていた。


「……《即死魔法》が習得者の魔力を殺すのはステータスカードに書かれている数値からして間違いない。MPは単純に魔法を操る力、即ちパワーだからね。力量関係なく葬れる《即死魔法》にはそもそもMPが関係ないと考えるべきなのか。」


男は少しばかり考える素振りをして、そう結論づけた。


「……私にはわからないけどフェイはどうなの?習得してからMPが下がったっていう感覚はある?」

「……ない。寧ろ使う度に形になっていく気がする。」


難しい話は苦手だと首をかしげてフェイに問うルイン。対してフェイは首を振って否定した後、普段《即死魔法》を放つ左手を凝視しながら手を握ったりして体感を確かめていた。


「形に……?」

「ああ、普段はギルドにモンスターの死骸を持ち帰って換金してたんだよ。普通の冒険者だとろくに素材が残らないだとか、欠損が酷くて引き取れない場合も多くて……」


フェイは自分なりに《即死魔法》での貢献の仕方を考えていた。その仕方というのは彼女の言うように、綺麗な死体をギルドに渡してお金を貰うという、どちらかと言えば一種の商売に近い。


「ギルドもモンスターの全身像というのは、生態を調べる上でこの上ない情報源だからね。それを損壊なく回収してくれる立派な人材だったというのに……」


男の悔やむような言葉に、フェイは苦笑いする他なかった。今まで《即死魔法》のことで誉められたことのなかった彼女にとっては少々くすぐったく感じる言葉だろう。


だがそれでもこの男があくまでも《即死魔法》そのものを悪く思っているわけではないことが理解でき、彼女も安堵していた。


「暫くはルインくんの補佐を兼ねて、これまで通り素材を提供してもらえると助かる。ここ近辺は《アグタール》周辺にはいないモンスターも生息しているし、なにかと新鮮だろう?」


彼の言葉にこくんと頷くフェイ。ルインの才能か能力の高さは目を見張るものがあるが、まだまだ経験が追い付いていないと彼女も思っていたところだ。それも含めてどうするかを考えていた矢先にそう言って貰えるのは、フェイからすれば願ってもない。


それに何よりもここは《アグタール》からはやや離れた土地であり、慣れない環境での戦闘はどうしても危険が付き纏うものだ。そういったことまで考慮してくれる彼の提案は、非常に有り難いものであった。


「色々と迷惑をお掛けしますが……助かります。」

「ははは、何のことはない。才能もあって素直な若者が入ってくれるだけで活気に繋がる。先輩がこぞってその芽を摘むような真似など決してあってはならないことだからね。」


大笑いそう意気込む男の言葉に、妙な引っ掛かりを覚える二人。それだけ話をよく聞いている証拠というべきか、男もまた困惑する二人の様子を楽しんでいるかのようなわざとらしい不自然な笑みへと変わった。


「あの……先輩ってもしかしなくても冒険者では?」

「や……やっぱりそうよね?」


すべてを察したように二人は顔を見合せ、男に詰め寄る。彼はニヤニヤと笑みを浮かべながら、「いやあ、バレちゃったかぁ」とでも言いたげに頭をぽりぽりと掻いていた。


「バレちゃ仕方ない、僕の方からも自己紹介させて貰おう。僕は《オルディン》のギルドマスター、ラルクという。この街唯一のAランク冒険者チーム……そのリーダーだよ。」


受付の男改めギルドマスターのラルクはそう言って二人に微笑んで見せた。身長は170後半とそれなりだが、アルゼンのようながっちりと鎧に固められた見た目でもなければ、ベイルーンのような威圧感も全く感じられない。




「「えっ……えええええええええっ!!??」」



冒険者であることは勘ぐっていたものの、まさかこのギルドのマスターを務める人間だったなんてと二人が衝撃を受けたのは言うまでもない。二人の絶叫にも近い驚愕の声がギルドの建物内に響き渡った。

7/24.【《即死魔法》は新たな街へ】に置いて加筆を行いました。

タイトルを【即死魔法使い、ギルドで嫌われ中デス!】から現在のものへ変更しました。

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