《即死魔法》は新たな街へ
それから二人は湖の畔で一夜を明かし、運よく《アグタール》とは別の街である《オルディン》という所までたどり着いた。
フェイが冒険者として活動していた《アグタール》は冒険者人口の多さに直結して酒場が多く、酔っぱらいやAランク冒険者の横暴さが悪目立ちしていたが、《オルディン》の街は非常に細部まで清掃が行き渡った白を基調とした街並みであった。
「ふうん……君も《アグタール》出身の冒険者なのねえ。」
「ええ……一応は。」
だがこの《オルディン》も立派に冒険者ギルドを構える程の大きな街である。現在フェイとルインはこの《オルディン》の街で冒険者として活動する許可を貰う為、ギルドのカウンターへと足を踏み入れていた。
「まあよくいるんだよ。向こうでやっていけないから、数の少ないこっちに乗り換える~なんてほざく低等級の冒険者が。一応ステータスカードを見せて貰うけど、あまり期待はしないでね。」
「……はい。」
《オルディン》のギルドは《アグタール》と比べれば名のある高ランク冒険者もあまり居らず、人口も少ない。冒険者の溜まり場となる酒場も少ないことからフェイはその事を容易に想像することができた。
だからこそ、このギルドではより“質“を求められているのだろう。数だけは多い《アグタール》から溢れてきた連中がのうのうとこの街にのさばっていると思うと、そこに嫌悪感を抱くのは至って普通の反応であろう。無理もない話だ。
「ふむふむ……Cランクの魔術師か。にしてはMPの少なさは気になるけど、他のステータスは《魔術師》の中でも目を見張る程の高さだね、中々面白いじゃないの。」
「ああ、ありがとうございます。」
そう言ってフェイのステータスカードを手に取る受付の男。彼は緑を基調とした風変わりな狩人のような軽装に身を包んでいる。やや白が混ざったような金髪を伸ばした中性的な見た目をしており、ここで受付をしていなければ貴族でもやってそうなくらいの美形であった。
彼はフェイのステータスに興味を持ったのか、かなり好印象といった感じでステータスカードをまじまじと眺めている。感嘆を漏らしながらステータス値を見るその様子は変人にしか見えないが、仮にもギルドの人間なのだから仕方のないことかと流すことにした。
「このステータスなら全然問題ないよ!すぐに名簿の方に加えておくから。それで……そちらの子は?」
「冒険者志望のルインです。登録しにきました。」
ルインの言葉と容姿に驚いた様子を見せ、髪越しに頭を掻く受付の男。恐らくはまだ幼い容姿故に冒険者として活動するには色々と不足しているのではないか、と彼は考えていた。
「……じゃあ拒めないね。一応、冒険者に年齢制限を設けていることは知っているよね?」
彼の言葉に「勿論知っているわ」と頷くルイン。ここら辺はフェイから聞いていたことであり、自分が冒険者として働くに当たって障害となり得ないと理解している。
「じゃあそれに満たして無かったら、問答無用で却下させて貰うからね。」
「ちゃんと聞いてるから大丈夫よ。お願い。」
ルインは男から渡された、両手掌程度の大きさをしたアンティーク調の機械に触れる。それは黒を基調とし、金色の装飾が施されている蓋のないティーポットか穴のない壺のような形をしている。その上には水色に輝くクリスタルが浮いていて、一目で普通の代物でないことは知識に乏しいルインでも理解できた。
「この機械は君の潜在的なステータスを読み取る物でね。年齢から君の適正の気質、能力の明確な数値を表示してカードに記載することができる。どういう原理かは製作者の人にしかわからないけどね。」
受付の男から説明を受けたあと、ルインはその機械のクリスタルの部分に触れた。クリスタルから放たれる光は小さな稲妻を伴い、ルインの手に触れてステータスを読み取っているようである。
暫くしてクリスタルが輝きを失うと同時に、機械から銀色のプレートがトーストの如く飛び出すようにして現れた。ルインはそのプレートを取り出して、ゆっくりと刻まれた文字を読んでいく。
──────
ルイン《人形傀儡師》
年齢:13
属性《紫闇》
等級D
ATK:25
MP:65
DEF:25
SPD:35
──────
──これがルインのステータスである。元はただの村娘であった為に仕方ない所は幾らかあるだろうが、それが気にならないほどに高いMPが際立っていた。
ルインはこれでいいのか、と男にステータスカードを渡す。
「……規定の年齢はちゃんと越えている。それしてもに《人形傀儡師》とは珍しい役職のようだ、ウチには前例がないよ。不都合なことはないし合格だ。」
男に合格を言い渡され、ルインの表情が笑みで緩んだ。多分大丈夫だと思っていても不安はつきものであり、もしかしたら何かの弾みで却下されるかもしれないという可能性は否定できなかった。そんな中で彼の合格の一言が彼女を安心させてくれたことに違いはない。
「ありがとうございます。私も正式な冒険者として貢献できるよう精進致します。」
「私からもお礼申し上げます。ありがとうございます。」
フェイもルインが冒険者になることを認められたことに安堵し、受付に頭を下げて感謝を伝えた。
「それじゃあこれから宜しく……とは言いたいんだけど、少し気になることがあってね。」
突然雲行きが怪しくなったかのように彼は若干顔をしかめた。ルインは何の事だと理解できずに首をかしげるが、フェイには心当たりがあった。
「あの……私に何か不都合があったでしょうか?」
「ああいや、ルインくんの方は一切問題はないんだ。この件はフェイくん、君の方にちょっと聞きたいことがあるんだ。」
ルインの事ではないと言った男の言葉に、締め付けられるような感覚がして言葉が詰まるフェイ。何を言われるのかを理解した彼女だが、彼女自身も恐らくこの件についてはツッこまれるだろうなと思っていた。
「──君のMPの低さが気になったものでね。もしかして君は《即死魔法》使いなんじゃないかな?」
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