《即死魔法》は疎まれる
(。・ω・。)この顔文字でお馴染み分身系プラナリアでございます。この度は新作を平行で書かせていただきます所存でありますが、どちらの作品も熱を入れて書けるように頑張りますのでよろしくお願いします。
「うぅむ……やっぱりウチには入れられないね。」
「……そうですか。」
とある建物の一室で、悩ましく頭を抱えていた男が少女にそう言い放った。彼の様子から相当考えていたのが伺えるが、言ってしまえば結果は結果である。
──要するに少女は不合格。
その一方で不合格を突き付けられた少女は、それが半ば予想通りだといった感じで特に理由を聞こうともせず、諦めに近い無表情のまま虚ろに目を見開いていた。
「あの、一応聞き直すけど君は本当に《魔術師》なんだよね?」
「はい。まだD級ではありますが、正真正銘《魔術師》を続けています。」
男は少女の装備を確認した後、「冗談だよね?」と彼女に聞き返した。そして彼は少女の返答に更に頭を抱えることとなる。
「……十年冒険者をやって来た僕から言わせて貰うけど、《魔術師》がそんな格好をしているのは初めて見たよ。」
男は口にこそ出さないものの、「ふざけた格好しやがって」と遠回しに言っていることは少女にもわかっていた。元より彼女も自分の身なりが一般的な《魔術師》から大きく逸していることを理解していたのだ。
彼女の服装を簡素に説明すると、肌の露出を隠す黒布のジャケットに身軽に動ける焦茶一色のショートパンツ。更に脚を保護する黒のストッキングを履いている。極めつけは腰のポケットには鎌の形をした短剣が掛けられていて、その身なりは最早《魔術師》というより《盗賊》である。
「動きやすい方が何かと都合がよかったもので……。」
少女は風に煽られ目にかかる蒼髪を掻き分けながら、申し訳なさそうに男に言った。その素直さや真面目さが、かえって彼を困惑させてしまっていることに彼女は気づいて無さそうであった。
「ああ、まあそれは置いておくとして、何より即死魔法一筋ってのはないんじゃないか?」
「……それしか出来ないもので、すみません時間を掛けました。ありがとうございます。」
少女はそこまで言われたところでスッと立ち上がり、「全て理解している」といった様子で申し訳なさそうに男に一礼すると、扉をゆっくりと開けてその場を後にするのだった。
───
(ふう……やっぱり駄目だったかあ。)
少女は物憂げに溜め息をつき、この《アグタール》の街を独り歩いていた。《アグタール》は広く冒険者が集う街とされ、彼女もまたここで冒険者として働いているのである。
(まあ分かっていたけどね……行くだけ無駄だったなあ。)
流石に結果が分かりきっているとはいえ、目の前で不合格を言い渡されれば少なからずショックは受けるものである。顔を隠すための黒いフードを目深に被って足早に街を駆けるように歩く。その姿はまるで何かから遠ざかっているかのようにも見えるだろう。
「止まりなさい、《アグタール》の穀潰し。」
「……!!」
少女は後ろから聞こえた声に反応し、言われるがまま止まった。彼女はその言葉が自分に対して言われていることを理解しているかの如く、何の躊躇いもなく声のした方へと振り返った。
「あら、ちゃんと自分の立場を弁えているようで安心したわ。ご機嫌ようフェイ。」
「こ……こんにちはカタリー様。」
カタリーと呼ばれた女性は赤みを帯びた桃色の髪を伸ばし、頭をスポッと覆い被せるほど巨大な魔女帽を被っており、一目で《魔女》であると分かる身なりをしていた。
その豊満な胸や肩を大胆に晒け出した豪華な黒いドレスのようなものを着る彼女は太股を晒すニーハイからドレスに付いた羽のような装飾や艶やかなヒールに魔女帽まで、その全てが黒一色に染まっている。
「Aランク冒険者、漆黒の大魔導師カタリー様でしょ?即死魔法の腐敗者さん?」
「……。」
カタリーは自分を大きく見せつけるが如く少女.フェイを一通り貶したあと、菌に触れたかのようにわざとらしく後退りしてみせる。
「あ~らやだわ。これ以上即死魔法使いに近づいたら、私の麗しい素質が腐っちゃうじゃない。貴女もいつまでも即死魔法に頼ってないでちゃんと基礎魔力を着けなさい。それかもういっそのことこの街から出ていきなさいよ!」
「そ……それは困りますよ大魔導師カタリー様。」
「それならちゃんと負けないだけの魔力を身に付けなさい。あと“王国直属のAランク冒険者“をつけ忘れているわよ穀潰し。誠心誠意込めてちゃんと敬いなさいよ。」
(ら、ランクアップしてる……!?)
フェイはそう思ったが口には出さない。もし口に出せばなんて返ってくるか分かっているからこその行動だった。
「ここの冒険者どもだって血の滲む努力をしてきてるのよ。まあそういっても“無属性“の貴女じゃ、例え血を吐き出し尽くしても無理な話でしょうけど。」
「しょ、精進致します。」
明らか小馬鹿にしたような言い方をされてもフェイは表情を崩さない。ここで激昂してもなにも変わらないどころか、カタリーに敵対するということが何を意味するのかを理解しきっているからだ。
「おう、カタリー!また即死っ子イビりかよ?」
カタリーの更に後ろから、彼女を呼ぶ声がしたと思えば、ガタイのいい金髪金鎧の男が冒険者を片手に引きずりながら現れた。様子からしてまだ生きてはいるようだが、散々ぼこぼこにされたのか歯はボロボロに折れて鼻や口から血を流している。
「あらアルゼド。その子はどうしたの?」
「この馬鹿が俺様の成果を盗もうとしたもので、軽く街中引き回しにしていたところだったんだ。」
冒険者の様子にぎょっとするフェイに対し、カタリーは興味を失ったのか「へえ」とだけ言葉を漏らした。彼女からすればこの状況はどうでもいいことらしい。
「まあ私達に逆らうってことはこういうことなのよね。」
「まあそうなるな!ガッハッハ!」
その後二人はフェイに別れを告げること無く、冒険者の男を引き摺ったまま歩き去っていった。その様子を遠巻きに眺めながら、フェイも一段落つけるために目的の場所に向かったのである。
【コミュ障娘の死術呪言─異世界で人類の敵になってしまったようだ】
こちらの作品も是非よろしくお願いします!