奴隷の弟子入り
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ある時は祓魔師のカトリア・ゲルシュツアルトとして、ある時は霊能者のモーテル・アシュランとして、エリオを弟子にするまでに彼女は長旅の中であらゆる依頼や悩みに応えてきた。
そこから仕事のツテを伸ばし、今の安定的な収入を築いたと言う逞しい武勇伝を道中に語り出し、エリオは鼻糞をほじった。
この数日間野宿をともにする中で、この手の話は耳にタコほど聞かされた。しかし耳糞はほじり尽きてしまい、エリオは仕方なく鼻糞をほじり始める。
「救済には浄化の力もあるの。だからヤマトナデシコの力が暴走しても、この大聖女ドロシー様がいれば何とかなるってわけ。弟子入り修行のついでにその力もコントロールできるように指導してあげる」
田舎道を彼女の後ろについて歩く中で、聞かされるのはそんな話ばかりだ。
しかしエリオはここ数日の間に、彼女から聖女の力を得るための修行や訓練を一切受けた覚えはない。
修行という名目で旅に出たのはいいが、行く先で目ぼしい宿やご飯屋がなければ当たり前に野宿をし、適当な木の実や食材を見つけてエリオが調理をする。これでは奴隷の頃と大して変わらない。
むしろふかふかのベッドもなければ、シャワーも風呂もない。奴隷時代より環境が悪化している。
「おい。俺の世話は責任持ってやるって言っただろ。なんとかしろ。もう何日も風呂に入ってない」
「うるさいわね。それはお互い様よ。私だって自慢の艶々ロングがベタベタして気持ち悪いのよ」
てめえの髪の話はどうでもいいだろとエリオはぼやく。しかしあっちは弟子の小言などろくに聞いておらず、自身の傷んだ髪に感傷の念を唱えている。
その亜麻色の長い髪やアメジストの目の色は、ヤマトナデシコ族のエリオには手が届かないものだ。彼の種族は黒一色しか持たない。黒はこの国で忌避される色だ。彼の種族が虐げられてきたのは、その要因もあるだろう。
だからエリオは、ヴォルガード邸の扉を開けたあの瞬間から、ドロシーの鮮やかな色を備える容姿に惹かれるものがあった。
顔はまだ幼さがあるが、美人な部類だろう。聞けばまだ16歳だと言う。6歳しか変わらないのかとエリオは驚いた記憶がある。
近くに小川や湖のひとつでもあればいいのだが、この絶望的な状況でも悪運が付き纏い、豊かな水資源には未だたどり着けていない。
どんなにあの蟷螂への鬱憤が溜まろうとシャワーを浴びればある程度発散できていたエリオにはとても辛い。腹が減るよりもエリオには死活問題だ。
――――――寒い。
「……寒いのか?」
「何のことかしら。あっ、寒いならお姉さんが温めてあげようか?」
「……いらない」
進路から吹く風とともに声がした気がしたが、誰の者かはわからなかった。
まあいいかと、エリオは今晩こそ温かい寝床とシャワーを求めて歩みを速めた。