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31 墓

 墓のない時代があった。


 死んだ人間の肉体は有機転換炉で処分し、壊れたロボットは素材毎に分別してリサイクルする。

 ロボットとの戦争に敗北した人類は墓を奪われた。墓を作り、残すという風習を奪われた。

 ロボットは過去を振り返ることはしない。失敗から学習することはあっても感傷にひったたりなどしなかった。


 墓などという物は、無駄に土地をつかう。なんの生産性もない。

 非合理そのものもであった。


 ロボットがアンドロイドになるまで、機宿という人がロボットに勝てる武器が地下にできるまで、その時代は続いた。


 ロボット達が地下の覇権を担っていた時代でも、人類は生きていた。ロボット達は人類を管理こそしたが、虐げることはなかった。家も仕事もあった。


 つくろうと思えば、家の中に墓をつくることもできた。

 しかししなかった。極々一部の酔狂者(すいきょうもの)もいただろうが、多くは家の隅っこに神棚を飾ったり、木彫りの仏を置く、その程度のものだった。


 墓などなくても人類は生きた。

 なのに、時代が変わり、土地が使えるようになると人類は墓をつくりだした。


 アンドロイド達は作るのなら家から近いところにすればいい。どうせ通うのだから近いほうが便利だ。そう口々に言った。


 人類は断った。

 まるでDNAにそうしろと組み込まれているかのように、町から遠くの不便で寂しい場所に墓を作った。


 アンドロイド達には感情が生まれた頃だった。墓というのは死んだ人と内なる世界で、会う為のモニュメントだと考えていた。


 死んだ人とは会えない。

 寂しいという感情は理解できる。

 だから寂しさを埋めるために、会ったつもりになるために墓がいる。そう考えた。その考えの上で人類に合理的な提案をしたはずだった。

 優しさだった。親切心だった。


 人類はその提案を断った。

 アンドロイドは不思議に思った。不思議を不思議だと思えるだけの感性があった。


 なぜそんな辺鄙(へんぴ)な場所に墓を作るのか、アンドロイドは訪ねた。知的好奇心があった。


 人類は皆バラバラのこと言った。人類のまとまりの無さはアンドロイドにとって周知の事実ではあったので、回答にまとまりがないことに驚きは無かった。それでも中には賢い者がいて、アンドロイドが納得する回答を誰かがくれるはずだった。


 残念ながら合理的な、納得のいく回答はなかった。


 ただ解ったことがある。


 人類は墓を嫌っている。


 人目のつかない場所、日常生活でかかわることの無い場所に墓をつくり、生活の上でも意識しないように過ごしていた。


 自分達が作ったのに、である。





「エルザ」


 広い墓地に男が一人立っている。背の低い男だ。ヒゲを蓄え、手は傷やひびで汚れている。


 広い墓地には石で出来た墓が、いくつもいくつも有った。


 男の名前はガーベージ・クリエ。エンジニアだ。仲間内からはチーフだの博士だのじーさんだの好き勝手呼ばれている。


 エルザ・ヴァレンティア。墓にはそれだけが刻まれている。日付や安息を願う言葉はない。形はシンプルな台形。

 周囲の墓も似たようなものだ。


 いつからそうしていたのだろう。

 マグマや地熱で温められた空気が天井で冷えて、水になって落ちてくる。雨という現象だ。

 今は雨は降っていない、にもかかわらずガーベージは湿っていた。

 雨にうたれてそのまま自然に乾くのを待っていたのだろうか。そんな壊れたロボットのようなことを? この男が?


 ガーベージは機宿やアンドロイドを作る。その一点においてはアンドロイト達に、勝るとも劣らない天才だった。それは驚異的なことであって、科学の分野で現役のヒトエンジニアは唯一、ガーベージだけであった。

 エンジニアとは、アンドロイドの専門職である時代にだだ一人残された、機械を作るヒトだった。


 無味乾燥、まるで旧世代ロボットのような墓に、白い花を置いた。

 生前、故人が好きだった花だ。

 地上にはない白い花。花言葉はホンモノの偽物。


「エルザ。メイがわがままを言うようになった。機宿の身体は()()()()ようだわ。新しい身体を所望されたわい。それがよりによってセクサロイドでな、わしがどうしてなのかを訊ねると、可能であれば人間であることがベストですが、人間では自分が入ることが出来ない。高性能なアンドロイドでは肉体の構造が強すぎる上、能力を発揮しようとすればインストール必須。自分は戦闘支援AIとしての職務を放棄する気はない。能力の低いセクサロイドであればインストールしなくても遠隔で十分だし、目的遂行の為に必須の機能も標準で有しているからと。……全く、誰に似たんだか」


「それで恋人の墓参りが遅れたの? ローズの遺言を聞いてからもう3日よ」


 墓とガーベージの側に来たのは、ポニーテールの女。見た目は若いが年齢はガーベージと大差ない。


「ローズはとうの昔に死んだわい。あれはバグった戦闘支援AIだわ。どこをどうプログラムを変えたのか、独立自動型と独立支援型の両方の性質をもっていたわい」


「そう、ね。ずっと前に死んでいたわね。チーフ、もう帰りましょう。長いこといたんでしょ、外は冷えるわ。それにこんなところに長くいたらエルザさんに怒られるわ」


「ふん。もう帰ろうとしていた時にお前が来たんじゃわい」


 そう言ってガーベージはずんすん歩き出す。その足取りは軽くはないが、重くも無い。しっかりと前を向いて歩いていく。


「マリリン、一個だけ訊いていいか? どうして遺言があると思った?」


「簡単よ。諦めが死ぬほどわるい……。死んでも諦めない悪い女の最期よ。死んだあともあなたを縛りつけるに決まっているじゃない」


「決まっているのか?」


「ええ。決まっているわ」


 そうか、そうだわな。そう小さく独り言ちてガーベージは歩いていく。


 安心したような顔をして、仲間達のいるマリス・ステラへと帰っていく。

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