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 一応一回変質した人たちを軽くは診断した。それでは流石に内部まで変わってしまった人たちをどうすることも出来ないと判断したわけだが……実際、変質させた張本人達が戻すことは出来ないと宣言した事で、彼らの命運は決まった様な物。それはただ、安らかに死を与えるのみ……みたいな結論だ。だってもとに戻せないのなら、それしかない。変質してしまった彼らには既に知性なんて物はなくなってる。ただにくい相手を刻まれてるかのように、その人に襲いかかるだけ。そして多分、その目的が終われば、次に死ぬまで周囲の者たちを襲い続ける。これはそういう兵器を作り出してるってことだ。

 許されて良いことじゃない。かれらだって、この中央に住む市民の筈なのに……人のように扱われることなく……いきなり化け物にされてそして殺される。そんなの悔しいだろう。


「無駄だ。何をやろうともな。貴様が何者なのか、それはわからないが、それに既に知性などというものはない。与えられるのは安らかな死だけだ」

「うるさい」


 別に、この人達になにか同情的な感情があるわけじゃない。いや、曲がりなりにも自分の世界では世界を救う勇者であった俺だ。理不尽な目に合う人達の味方に成ってやりたいという思いはある。でも今はその使命感というものが、本当に自分自身の根底の考えだったのかって思わなくもない。なにせここには使命なんて物はない。でもだからって勇者の心がなくなったわけでもない。だからどうにかしてやりたいとは思ってしまう。

 それになまじ、力を俺は手に入れてる。それは勇者として戦ってた時以上の力だ。それがあれば……って思ってしまう。しかも今の力の使用範囲は無限大だ。世界に縛られた力じゃない。前の世界ではそれぞれ役割があった。勇者の力は勇者としての魔法や特別な能力のためにしか使えなかった。それには不便だってあった。確かに強力であったのは確かだ。それによって救えた命は少なくないだろう。でも当然救えなかった命だって大勢ある。

 力がもっと柔軟性に飛んだものなら……でも限定的だったのも今ならわかるんだ。なにせ柔軟性がある力というのはなんでもできそうで、何も出来ないってことでもあるってしった。力の方向を定めてる事で、きっと元の世界では複雑な事をなくしてたんだろう。勿論それなりに理解する事は必要だった。だが、それは勇者の力に理解を示したり、心の問題だったり、大体は心の方が重要だった気がする。だが今は膨大な知識を紐解いて、力の本質を一つ一つ理解して行かなくてはいけない。ただ力を筋力とかに変えるだけなら簡単だ。力をまとう……それだけでいい。だが、効率を求めるなら、それにだって色々と必要な知識というのはあるんだ。

 元の世界では勇者というだけで自動的に怪我は治ったし、そもそもが体の強化が常時されていた。だがそれを今、自分でやるとなると大変だ。まあ元の世界で強化された状態よりも、今の普通の状態の方が身体能力高いんだけどな。


(今の俺はなんだって出来る……)


 でも最初変質した彼らを診察した時、これは無理だと思った。それは自分でどうにか出来るかもしれないが、今の俺には無理だと思った……というのが正しい。なにせこの変質は一方通行でしかやる前提じゃないからだ。はっきり言って、メチャクチャ体を弄って、無理矢理目的意識だけを残してる……みたいなそんな感じなんだ。この下面の奴らの言う通り、あとのことなんて考えてない、ただの手段の一つ。彼らが失敗しても何でもいいって事が透けて見える所業だ。


 でもそれを聞いたからこそ、この下面の奴らがこの人達をただの道具としか見てないからこそ、今俺はそれに抗いたいという気持ちが出てる。それは俺のわがままかもしれないし、勇者としてのプライドかもしれない。俺は俺の力昏倒させて縛ってる変質した者たちのところへと近づいて、彼らに心の中で告げる。


(これは俺のわがままだ。だから恨んでくれて構わない。可能性に掛けさせてくれ)


 俺は手をかざして自分と変質した者たちが包まれる様な魔法陣を展開した。

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