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間に合いそうもない二人を見て、私は事前につけてたナノデバイスを解禁させた。蜘蛛型の小さなドローンで気付かれないように実は勇者からウサギな彼女へと移してたのだ。用心に越したことはないからね。
その蜘蛛型のドローンがぴょんとはねて向かってくる神の代行者とウサギな彼女との間に強力な電磁波を発した。それによってビリ!――としたのか、神の代行者の腕が止まる。まあ反射は意志とは関係ないからね。いくら神の代行者が強くても、体が反応するのはしょうがないのだ。それを狙ってやったんだからこれはこっちの作戦勝ちだよ。
ビリッとしてる間はそれこそ数秒でしかなかっただろう。でもそれだけで十分だ。
「はああああああああああああああ!!」
黄金の剣線が神の代行者へと降り注ぐ。それは強烈な力で神の代行者を押していった。本当なら切れるんだろうけど……それは神の代行者である。細い枯れ木のような体だけど、勇者の聖剣の攻撃には耐えてその体が傷つくことはなかった。さすがは神の代行者。
その間にも勇者とアイが間に合ったから、ウサギな彼女と神の代行者の間にはいった。奴に口はない。三つの目をまとめてる頭というか? その部分はある。だから顎みたいなぶぶんもあるけど口はない。だから叫ぶ……なんてことはできない。でもその細長い手足を広げて震わせてる。それはきっと怒りを表してるんだと思う。邪魔した私たちに対して、奴は怒ってる。
そしてその三つの目から涙がでてくる。どうやって泣いてるのかは謎だ。だって涙というのは目玉から直接あふれてるわけじゃない。人間とかは瞼に涙線があってそこから涙が出てるはずだ。でもあの神の代行者の三つの目は涙を流してた。
それも清らかな透明な涙じゃない。真っ赤で黒い、血の涙だ。
ぽたぽた……
「なんだ?」
そんな風に勇者が反応する。彼の頬には赤い液体がついてた。それはまるであの神の代行者の涙みたいだった。でもあいつは前にいる。勇者たちは上を見る。すると……そこには三つの目玉があった。巨大な目だ。超巨大といっていい。それが涙を流してるのだ。なんだこれ? と思ったその時、すでに奴は仕掛けてた。
勇者たちの周囲が神の代行者の物と思われる涙で周囲を包まれる。
『まずい!』
私はとっさにドローンたちを勇者たちのそばに向かわせた。けど……目玉の涙のカーテンがそれを阻む。結局涙のカーテンに遮断された向こうに送り込めたドローンは両手の数くらいしかなかった。




