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「はむはむはむ! ズズーズズズズズ! アムアムアム!」
それはまさに野生……といっていい光景だ。そもそもが文明なんてものが微塵もない世界である。あったかもしれないが、すでにそれは跡形もない。彼女はこの世界をサンクチュアリで救ったはずなのに、その痕跡は跡形もなく、今のこの世界には何も残ってなんてない。
だからこそ、まともなものを食べてなかっただろうウサギな彼女。いったいいつサンクチュアリを宿して、そしてこの世界がこんなになってしまったのかはわかんないが、彼女の食べっぷりを見てるに、きっとそれはとても長い年月だったんじゃないだろうか?
それこそ食事とか忘れるくらい……きっと長い間この世界でたった一人、さまよい続けたのかもしれない。もしも……だよ? もしも本当に例えば世界を一度救ったのに、結局こうなったとしたら……それをこのウサギな彼女が見てきたんだとしたら……それはとってもつらいことなんじゃなかったんだろうか?
実際そんなことが起きたのか? はわかんない。だって確かめようがないからね。なにせ痕跡があったら、G-01の化学力で当時の記録を読み取る……とかできるかもしれなかったけど、そんな痕跡まったくないからね。
もしもこの世界にも彼女以外に生命体がいて、文明が栄えてたとしたら……それがすべて消えてしまってるんだとしたら……一体彼女は、どれだけの時間をたった一人で過ごしてきたんだろうか? 実際世界が滅ぶってなってもいきなり爆発四散する……なんてことはないのかもしれない。
それこそ内部の強大な力のぶつかり合いによって世界自体が耐えられなくなったりとかさ、それか外からの予想外の干渉……そんなのがないと世界がいきなり消え去るなんて起きない。
だから彼女はずっとここに一人で……この白い……何もない世界でずっと……そう思うと、こんな色とりどりというか、刺激的な色の食べ物なんて感動ものだろう。だからこそ口回り……というか顔全体にべったりとつけながらもそんなの気にせずにくってる。
「うわぁ……」
そんな風にあからさまに嫌そうな顔をしてるのはアイである。きっとウサギな彼女の行動というか? 行儀? それがアイには理解できないのだろう。アイは元々常識を埋め込まれたAIだしね。生まれたときからある程度の知識も常識もインストールされた存在だ。
だから常識がない……というのが分かんないんだと思う。だからアイにはウサギな彼女は本当に野生動物みたいに見えてるんだろうね。まあ私も衝撃ではあるけど……でも私はまだ微笑ましいなって思えるよ。
私は彼女の境遇を想像できるからね。




