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「あー、うーあー」
なんかそんな風に声? いや、ただの音? を出して半端なウサギ人間が言う。いやもうそういうのは失礼かもしれない。なついた彼女はなかなかにかわいい。その体は大半が二足歩行のウサギと同じく下半身がぼてっとした感じではある。けどそれもそういう着ぐるみを着てると思えばそこまで違和感ないというか? 今まで汚れとか気にしてなかっただろうから彼女はそこそこ……というかかなり汚れが目立ってはいるが、ちゃんと洗って汚れを落としたらそのくすんだ色の体毛とかももっと真っ白になりそうではある。
今はゴワゴワとしてるその体毛もきっとサラサラになるだろうし、垢を落としたら彼女の肌は陶器のような輝きを取り戻すだろう。髪の毛だって今は跳ね毛がたくさんある。適当に邪魔になってきたら爪で適当に切ってきてたんだろうというのが分かるくらいには髪の毛ギザギザしてるからね。
そこらへんも整えてやったら、とても化けるかも。まあけど今の状況では厳しいけど。お湯を生み出すくらいはアイも勇者もできるだろうけど、なついてくれたのなら、そのままサンクチュアリという中身事ウサギな彼女を回収していいもんね。
「ほら、これを」
そういって勇者はウサギな彼女に何かを渡す。それはきっと彼女は初めてみるものだろう。それは透明な銀の筒。それの先端をキュポッ――と勇者は開けてその開けた部分を受け皿にその中身をコポコポと注いでいく。
赤い色の液体からは湯気が出てて、そしてその中には肉や野菜がそこそこの大きさで入ってる。
「あう?」
首をコテンとするウサギな彼女。きっと何かわかってないんだろう。まあこんな世界である。文化的な食事なんてしてなさそうだしね。いや、そもそもウサギな彼女に食事は必要なのか? だってこんな世界だよ? いつからこんな吹雪の世界になってるのかはわかんない。けど、ここには食べるものなんてない。せいぜいこの無限に生成されてる雪か氷漬けになってる木々くらいである。
他には雪の下の大地? どれも「おいしい」なんて絶対にいえないだろう。それに暖かくもない。食べ続けてるときっとおなかを壊してしまう。だからもしかしたからウサギな彼女は自身の中でエネルギーを循環させることができるのかもしれないと思った。
だってそうしないとこの世界では生きてけないだろう。そもそも雪に栄養なんてものはないし? だから暖かいこれが食べ物なんて彼女にはわからない。なのでまずは勇者が口に含んで食べてみせる。するとウサギな彼女もそれをまねしてべちゃっと容器の中のものをひっくり返して飛びついた。
「うみゃああああああああああああああ!!」
あつっ!? とかいうリアクションをするのだと思った。だってウサギな彼女は容器に入ってたスープが顔にかかって赤く染まってる。湯気が出てたんだよ? それなりに熱いはずだ。でもどうやら彼女はそんなのきにならないらしい。
さすがは丈夫な肉体してるだけある。それよりも彼女はそのおいしさに心を奪われたようだ。




