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「だめです。やめましょう」
そういって勇者は拳銃にその手をおいてアイの手を降ろさせた。そして次に怯えてる半端なウサギ人間を落ち着かせようと、その背をなでる。
「大丈夫だか――つっ!?」
ガリガリとその爪が勇者の背中を削る。きっと半端なウサギ人間にはそんな気はないんだと思う。でも、奴はその体全てが凶悪なのだ。戦いに特化してる……といってもいい。だからちょっと動くだけで相手を傷つけてしまう。強大な力だからこそ、それを完璧に制御できないと、こういうことになるっていうね。
けど勇者は動じないよ。それでも、このウサギ人間を落ち着かせようと声をかけ続ける。
「大丈夫。心を落ち着けるんだ」
優しい光が勇者の手には灯ってた。何回もその背中に凶悪な爪が突き立てられるが、それにはもう勇者は反応しない。ただ、その存在を示すように、勇者はウサギ人間の背中を擦り続けてた。
すると、激しく逃げようとしてたウサギ人間の動きがかわっていく。なんとか離れようとしてたウサギ人間から力が抜けて、勇者の肩にその額をあてる。そして静かに震えてる。そんなウサギ人間を勇者はいつまでも受け入れてた。
『あらあら、色男はは罪深いですね』
「やめてください」
私はからかう感じでそう言ってあげる。そして勇者は困ってる。けどこれは……ね。からかわないわけには行かないというか? だって……だってあれからようやく落ち着いて、更にはなぜか爆睡してしまったウサギ人間。それから目覚めたら……こうなってた。
こう……というのはウサギ人間は勇者から離れなくなってたのだ。手を繋いでないと落ち着かない……なんて生易しいものじゃない。ウサギ人間は勇者に常に抱きついてる状態になってる。
全くこれだからイケメンは……と言いたくなる私の気持ちもわかるだろう。
「あなたの責任なんですから、貴方が責任持って面倒見なさい」
「そんな……」
まるで勝手にペットを連れ帰ったやつに言うようなセリフをアイは勇者にいってる。まあ確かにこうやって見るとペットみたいだけど……ウサギ人間は落ち着いてるのか、真っ赤に輝いてた目が通常状態になってる。眼球とか見えてるし。でも……その目はかなり特殊だ。
なんか眼球に模様がある。雪の結晶のような模様だ。きれいな目をしてる。さっきまで叫んでたからあんまり思わなかったが、顔もかなりかわいい。ウサギ部分が多いからちょっと残念なくらい。これで人間部分がもっとあれば……ね。まあこの世界は吹雪いてるからね。
人間のように体毛少なかったら、ここで生きていくのは厳しかったのかもしれない。だから体毛がもふもふな二足歩行のウサギの体がベースになってるのかも。事実人間になってる鎖骨から上の部分は体毛モフモフなんてお世辞にも言えない普通の感じだからね。
そこだけ寒そうに見えるのは確かだ。




