90
胸を貫通された勇者だけど、どうやらそれは肉を切らせて骨を切る……のすっごい版というか? なにせそもそもが胸を貫通させるのとか普通は致命傷だ。だからその時点で普通の生命なら終わってる。でも勇者は普通の生命じゃない。
そもそも今の状態をちゃんと『生きてる』――といえるのか? というのがあるかもしれない。勇者とかは自分が生きてると認識してるが、人によっては勇者のような状態を「生きてる」とは認識しない奴だっている可能性は……ある。
だって完全に致命傷を受けてる。だからこそあの半端なウサギ人間も次の獲物――つまりはアイの方へといこうとしてた。でもそれを胸を貫かれたはずの勇者の手が貫かれたその腕をつかんでとめる。
「どこに……行く気だ?」
その口から吐いた血が痛々しいはずなのに、勇者の目には力強さが残ってた。そして当然、勇者はこの絶好のチャンスを逃す気はない。自身の体を使った囮……そう、これは勇者の罠だった。勇者はこの目の前の存在が強いと、そう認めてる。
いくら強くなったとしても、謙虚さを忘れない勇者。だから冷静にどうしたら有効打をうてるのか、そしてどういう選択が早くこの戦いを終わらせることができるのか……それをきっと考えたんだろう。
さすがに生身ではこんな無謀な作戦……いや無謀というか自殺行為といっていいことはできない。この体だから勇者はこんな無茶をできた。実際死ぬことはない……といっても、痛みは普通にあるからね。
あんな大きな傷はそれこそめっちゃ痛いはずだ。それでも、それを覚悟して行動に移したのは、きっとこれが一番いいと思ったから。勇者は優しいやつだけど、その人生は戦いに身を置いてただけあって、結構振り切れてるところあるよね。
キィィィィィィィィン
「そのまま、捕まえときなさい」
大きな光がこの吹雪の場所にともる。アイの巨大な銃の先端に集まる強大なエネルギー。それが二人の背後に長い影をつくる。さすがにまずいと思ったんだろう。なにせそのエネルギーは規格外みたいな大きさだ。
そんなエネルギーはきっとこの世界にはいなかっただろう。それこそ自分しか……サンクチュアリを持つ自分に匹敵しうる強大なエネルギーを今中途半端なウサギ人間は感じて恐怖を感じてるかもしれない。
まあ本当にそうなのかはわかんない。なにせアイの収束してるエネルギーが大きすぎてドローンたちにも影響がでてる。
「あがあああああああ!!」
焦ったような声。そして勇者を振り払おうとして反対の腕で攻撃をする。でも襲い掛かる反対の手も勇者は抑える。そしてこういってやった。
「さあ、我慢比べだ! 覚悟しろ!!」
その言葉の後、二人を巻き込む砲撃をアイは迷わず撃ちはなった。