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「ん……」
ミレナパウスさんが見たことないような顔してる。渋いのか辛いのか……なんとも言えないような顔である。それを見てリファーちゃんが「吐いてもいいよ?」――とかいって周囲にぺっぺっと自分の口に含んでた実を飛ばしてる。
けど……どうやら育ちがいいミレナパウスさんはそんな事できないらしい。さささーと草むらの方へいくと、そこにしゃがんで音がしないように涎をためて近くの葉っぱを捕ってそれに吐き出してた。
この亀の背中の世界ではなんにでも亀の甲羅のような六角形を重ねたような模様が入ってる。地面から生物、何かなにまで……といっていい。でも普段から風になびいてカタチンカチン――と鳴ってることはない。普通にサワサワと鳴ってる……とは言ったと思う。でも……
「大丈夫だった?」
「ええ、よくあんなの食べられますね」
「そうかな? もっと一気に沢山食べたら、喉が面白くなるんだよ?」
リファーちゃんはのど越しがいいとか言ってたもんね。いや、いい……とは言ってないか。私が勝手にそういう風に解釈しただけだ。でもミレナパウスさんの行動を見る限り、どうやらあの果物はゴックン出来る物ではないらしい。
それをリファーちゃんはバクバクと食ってる……あの子の味覚大丈夫かな? とちょっと心配になってきた。人が口に入れたものを吐き出すのはある意味で自己防衛の本能だ。体内に毒が入ってきたと思うから急いで吐き出さないと! ――となる。それは汚いとかじゃなく、そうならないといけない。だって毒を食らうわけにはいかないじゃないか。毒殺……なんてのは暗殺の定番だ。
きっとどの世界であっても、毒はあるし、それを利用して相手を殺そうとする輩だっているだろう。でもそれもこれまでの生命の経験の積み重ね……なのかもしれない。リファーちゃんにはそんなのないから、とんでもなく不味くても……きっとそれが毒だとしても、リファーちゃんはきっと食べられる。
実際リファーちゃんならそこらの毒にやられるような体質ではないとおもう。人のように見えて人ではないし……人が死ぬような毒ではきっとリファーちゃんは死なないだろう。だからこそ、許容できる不味さも毒も普通の人よりも広いのかも。
「やめときます。それよりも、これを見てください」
そういってミレナパウスさんが出したのはさっき自分が食べた実を吐き出すときにつかった葉だ。いや、勿論それ自体じゃないよ。同じ葉っぱをとってきたんだろう。流石にミレナパウスさんは自分が吐き出したものを見せるようなさ……そんなアブノーマルな性癖は持ち合わせてないだろう。
「これって……武器? えい!」
葉っぱを受け取ったリファーちゃんは色々と触って、それを思いっきりなげた。するとその葉っぱは岩にグサッと刺さったのであった。




