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「痛い!」
ガキン……とリファーちゃんが手に取った果物に歯を立てたらそんな音がした。リファーちゃんが木々からもぎ取った果物は洋ナシのような見た目をしてる。けどその表面にはカメの甲羅の重なるような六角形の模様が現れてる。もしかしたら某漫画の○○の実? とか思いそうな見た目してるが、あっちは一応ちゃと食べられるはずだろう。けどどうやらこっちの実は歯を拒むほどの硬度があるらしい。てかこのカメの背の世界はどこもかしこもカメの甲羅の模様があるわけで……じゃあどこもかしこもかっちこちなのだろうか?
一応風が吹けばサワサワというような自然の音? みたいなが聞こえる気はするんだけどね。もしもすべてが硬いのなら、この音だって「ガチンガチン」――とかになるんではないだろうか? だってそうだろう。硬質なものがぶつかったのなら、硬質な甲高い音がするはずだ。こんな優しい音になるわけはない。けど不思議なことに音は柔らかい。
「うう、ミー姉……いひゃい……」
リファーちゃんは涙目になってた。なぜかというと、それを見たミレナパウスさんが察する。
「なおひて~」
「はいはい」
どうやらリファーちゃんは硬い木になってた実を噛んだことで歯ぐきから血が流れてしまってるみたいだ。黄金の血……それが口の中を染め上げてる。だから口の中に向かって回復魔法をかけてあげるミレナパウスさん。
「もう、これからすぐに口の中にものをいれたらだめですよ!」
ミレナパウスさんがお母さんみたいなことをいってる。まあけど正しいけどね。なんでちっさい子はなんでもかんでも口の中に入れようとするんだろうね。実際赤ちゃんくらいの子はそれだけの知性がないってわかるが、いくら生まれたばかりといってもリファーちゃんには知性がある。うん……あるよね? なのによくそんな気味悪い果物を口の中に入れようと思ったよね。
リファーちゃんは治った口の中を確かめて改めてその果物をみる。いやいやちょっと待て――とか思ってると再び「あーん」……と
「やめなさい」
ミレナパウスさんが止めた。けどリファーちゃんはコテンと首をかしげてこういった。
「今度はゆっくりと噛むよ?」
「ゆっくり噛んだら食べられるのですか?」
「それはわかんないけど……」
「かしてください」
ミレナパウスさんが果物を受け取って、コンコンと軽く手の甲でたたく。そして軽く詠唱をする。ヒュルヒュルと集まってきた風が果物を持ち上げた。そして頭上に軽く浮かぶ。それに向かってさらにミレナパウスさんがそのしなやかで細い指を向けた。
次の瞬間、ズバッ――と見えない風の刃が一閃された。すると果物は真っ二つになった。中身は黄色い実がいっぱいぎゅうぎゅうに入ってた。
「おおう。食べていい? 食べていい?」
そういってリファーちゃんは割れた果物に対して手を伸ばしてる。




