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「みーお姉ちゃん、お魚さんが怖いの?」
「怖くはないです。ちょっと不気味だなって思うだけで。こんなの初めてみますし」
なるほど確かに考えてみだらミレナパウスさんは魚を見るのは初めてかもしれない。だってミレナパウスさんの世界は砂の世界だった。水が貴重な世界だったからね。海とかそもそもなかったし。こんな溢れんばかりの水の世界なんて想像できなかっただろう。しかもしょっぱい水である。
ミレナパウスさんは当然驚いてた。これだけの水にも、そしてしょっぱい事にも……でも魚にはそこまで……と思ったけど、ちゃんと驚いてたみたいだ。まあそもそも水でみる状態と、水から上がった状態では魚って印象変わるかもしれない。しがみつくので必死できっと顔とか見てなかっただろうし?
それが今はトビウオも大人しくしてて……というか気絶してて、その体の全てが現わになってる。直接じっくりとみたから、この生物気持ち悪い……と思ったのかもしれない。水の中で生活する生物だからね。陸上の生き物とは姿かたちがまるで違うんだから、そう思ってしまうのも仕方ないのかもしれない。
「とりあえずじっとしていてください。絶対に近づけないで!」
念押ししてリファーちゃんにそう伝えるミレナパウスさん。リファーちゃんはただ素直だから「わかった!」と元気よくいった。これがお約束をわかってる奴なら、そんな事をいいつつも、ミレナパウスさんに魚を近づけて「きゃあああああ! もう!」――とか言わせるんだが……リファーちゃんはそんな事をするわけない。
てかその「お約束」をわかってるのはきっと私だけだ。いやもしかしたら同じような文化? はどこの世界にだってあるかもしれない。でも……
「勇者は真面目だからな……アイは堅物だし……」
二人ともそういうのわかっててもやりそうになかった。唯一やりそうなやつと言えば魔王だった。でもあいつはもういない。だから誰にも期待できないや。せっかくミレナパウスさんのかわいい反応がそこにあるのにね。
「いきます」
私が渡した因子の情報……それをミレナパウスさんは魔力を変換してトビウオに付与してみた。私なら直接的にトビウオの遺伝子情報を書き換える……という事が出来るが、ミレナパウスさんはそこまでの事は出来ないから、魔力を使って因子を再現してそれを付与するってことにしたみたいだ。
でも上出来である。そもそもが因子の情報だけ渡した私が悪い。それをちゃんとミレナパウスさんはトビウオに付与したんだから、これまでの学びがとても生きてるといえる。うんうん、私もこれを狙ってたんだよね。やっぱり答えを教えるだけじゃダメじゃん? 自分で答えを導く力……これが大事だと思うんだよ。ほんとだよ?




