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「はぁ……まあいいわ。とりあえずその魚にジーゼ様が渡してくれた因子を……」
「みーお姉ちゃん?」
ミレナパウスさんはリファーちゃんのおかしな時空間の魔法になにか言おうと思ったみたいだけど、口に出す前にそれを飲み込んだみたいだ。口には出さずに私が渡したこの亀の因子をトビウオへとさっさと埋め込もうって考えた。けど、ミレナパウスさんの動きが止まった。
何やらミレナパウスさんはジッと一点を見つめてる。それは……トビウオの目だ。魚の曇りなき眼をまじまじとみてる。瞼とか魚はないから、まん丸い目がそのまま見える。その目にまるで吸い込まれるように目を見つめてる。
「お姉ちゃん!」
「ひっ!?」
リファーちゃんが腕を動かしてミレナパウスさんの近くに寄らせる。すると体を跳ねさせるようにしてミレナパウスさんが後ろに下がった。すると――
「きゃああああああああ!」
――ミレナパウスさんは落ちた。そもそもが亀の甲羅が崩れてるようになってる崖? みたいな部分にいたわけだ。そこは元から足場的には狭かった。そんな場所で思いっきり飛んだらね……もちろん飛んだ先に足場なんてない。だからミレナパウスさんは落ちた。けど次の瞬間、ミレナパウスさんが消えた。そして元の場所にもどってきた。
「――いつ!?」
下に落ちる勢いのままさっきまでいた場所に戻されたミレナパウスさんは腰をその場所に強打してた。うーん、やっぱりリファーちゃんがいった方が良かったのでは? それならきっとこんな風にはならなかった。たぶんリファーちゃんはミレナパウスさんが落ちてるその場所か通過する真下部分にでも空間の入口を開いたんだろう。そしてそこにミレナパウスさんが落ちて空間を通じて元の場所に戻した――というのが今の空間移動の原理だと思われる。確かにこれなら自分が行く必要ない。
トビウオもそうやって自分の手元に出したんだろう。さっきリファーちゃんは『見てきた』――といった。その時にそれぞれの個体に当たりをつけてたのかもしれない。
「リファーちゃん……もう少し優しく……」
腰を抑えてプルプルしてるミレナパウスさんがそんな抗議を弱弱しく言ってくる。それに対してリファーちゃんはちょっとは悪気が出てきたんだろう。
「あははは、ごめんなさい」
――といって謝った。




