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「こいつら……」
勇者は負けない。負ける気はない。確かにこの巨体を持つ二足歩行のウサギは強い。けどそれでも勇者とアイを倒すには至らない。野生の狂暴。それに最初は押されたりはした。こいつらの体の特性、そして脚力に膂力……それらは想定よりもずっと強かった。
それは何かの力……という事じゃない。この力はこの生物に初めから備わった筋力といっていい。密度の高い筋肉と絡まるように組まれた筋がこの巨大なウサギの想像以上の力の源。
(凄い力だ。でも……この膂力はこいつだけの特別……だけじゃない)
勇者は迫ってくる二体の爪を聖剣で防ぎ、背後からせまった一体の爪をかわす。飛んで回避したわけだが、そこにさらに別の固体が空中四方向から迫る。それに対して勇者は回転した。
「「「「がああああ!!」」」」」
四方から迫った巨大なウサギはそのまま腕を振るった。けど奴らには想定外があった。それに気づかなかった。先に回転した勇者。それをただのパフォーマンスとでも思ったのか? それとも不発に終わったと……けどそれはどちらも違う。勇者はもうやってた。振るったやつらの腕。いや……その腕の先に、もう爪はなかった。だから彼らは届かなかった。そこにどこかからか見えない衝撃がウサギたちを襲う。それによってそれはその巨体でも軽々と飛んで行った。でも……数十体の巨大なウサギが雪の中から現れる。
「次から次へと……」
そんな言葉が勇者から漏れる。負けない相手であっても、終わりが見えないとぐったりとはするものだ。その気持ちはまさに面倒。この悪すぎる視界の中、巨体であっても全ての数を把握することはできない。既に沢山つぶしてる気はする。勇者が知らない所で、アイもこのウサギを気絶させてるはずだ。彼女は空砲やら、その耳の良さを逆手にとって、音……で攻撃してる。大体のウサギは勇者が引き受けてる。そもそもがアイは折にいって姿を隠した。
このウサギたちの野生の勘……とかで見つられる可能性もなくはない。だが、まだ大丈夫だろう。
『おかしいな……』
私はそんな風に思ってた。勇者たちは向こうの世界の環境ではその数を正確に知ることはできないだろう。ならばこっちの出番である。こっちが把握して、情報を勇者やアイに伝えればいい。お互いにフォローする事って大切だよね。そう思ってたんだけど、うん……はっきり言ってその数がおかしい。これは流石にレーダーの誤作動ではないだろうか? だって……だってその数……なんか数万とかだよ? これは伝えない方がいいなって思った。




