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私の目の前には小さなまん丸モフモフがいる。そいつはこっちを見て震えてる。まあサイズ的にこっちは巨人も巨人だからね。しかも飛んでるし、この世界にいる鳥のように飛んでる訳でもない。翼をバサバサしてるわけじゃなく、足や腰のブースターを吹かしてるわけで、それでG-01を空中にとどめてる。おかげで地面にはブースターの風圧が吹き荒れてて、実は結構周囲はバッサバサなってる。それのせいであのまん丸モフモフの本体の恐れが増してるのかもしれない。
やっぱり理解できない存在というのは怖い。それこそ本能からくる怖さだろう。だからまん丸モフモフの本体が恐れてるのは本気だと思われる。これはもう決まったかもしれない。どうやってサンクチュアリを回収しようか? 殺すか? とか思ってたけど、こうも恐れられてて、プルプルと震えてるとプチっとするのも気が引ける。でも下手に逃げられても困る。
ここで逃がすと絶対に責められるしね。特にアイに。かといってあいつを手なずける? それをやっても別にメリットはないからね。なるべくさっさとサンクチュアリを回収したい訳で……今まではその意思でもってサンクチュアリを回収してきた。無理矢理とかはやってないからね。
この生物を懐柔する気はないし、時間をかける気もない。けど殺すのは忍びない。ならばどうするか? 優しくサンクチュアリを引きはがす。それをやってみよう。この世界ではまだまだ余裕がある。これだけ早くサンクチュアリを宿す存在を見つけたのも始めてだからね。
「むむむ」
私はガツンと一発、額の所にある弾丸を放つ。それは威嚇射撃だ。怯えてるのは間違いない。けど、流石に抜け目ない。ちゃんとこの状況からでもこいつは逃げようとしてる。別に痛いことはしないよー。
だから大人しくしててほしい。私が威嚇射撃をしたから、体が硬直してる。サンクチュアリ……世界が選ぶ救世主みたいな……そんな存在。別に何かを背負わされてるわけじゃない。
でもやっぱりサンクチュアリを宿すといろいろと抱えることになるのは事実。まあこのまん丸くてモフモフの生物の場合はそんなのはなさそうではある。この世界には文明とかないし、どうやらこの生物にはコミュニティとかもないようだ。
いくら文明がなくても、自分たちのコミュニティくらいは形成してておかしくないものだけど……同じ様な種族はいないのか? それとも、ハブられたか……後者の可能性が高そうだよね。
サンクチュアリを宿すというと特別感が強い。そしてそれは間違ってない。でも『特別』というのは必ずしも羨望になるわけじゃない。むしろ……その逆になる方が多いだろう。周囲とは違う……それで虐められるのは何も知的な生物だけじゃない。むしろ本能で生きる動物のほうが、異物感を感じやすいとかありそう。
「大丈夫だから……」
私は怯えながらなんとか反抗しようとしてその毛をとんがらせて威嚇してるまんまるの生物にそう呟く。もちろん、その言葉は届くわけない。むしろこっちが動き出そうすると向こうも更に覚悟を決めて、生きようとしてくる。
殺すつもりはないんだけど……これが野生が持ってる生への渇望なのかもしれない。