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彼が初めてメタリファーと相互通信……つまりは思考をやり取りできたのは彼の研究の成果……みたいだ。どうやら最初はこの空間はこんなんではなかった……よう。
それはつまりこんな船がどこまでも積み重なってるような空間じゃなかった……ということだ。ただ何もない空間だった。けど一度彼の円盤を受け入れると、時々メタリファーは船を持ってくるようになったみたいだ。
そこには誰もいない船もあったし、まだ人がいる船もあった。そんな船の人達と交流したり、時には敵対したり、なんか色々とあったみたいな記憶はある。
けどそこら辺は今は関係ないだろう。問題はメタリファーと彼のやり取り。彼の研究でどうやらメタリファーとわずかながらでも意思疎通ができるようになった。
こっちの言葉が通じてるのかはわからないが、メタリファーが船をこの空間に持ってくるのは彼にとって都合がよかった。だからきっと彼はメタリファーが彼の意思を汲んでるのだと考えた。ならばずっと夢中でここでも研究してたわけだけど、ふとなんでメタリファーはこんなことをするのか? とかもっとこっちの要望を聞いてくれないだろうか? とか実は図々しい事を考えてた生前の彼である。
なので色々とメタリファーがここにいる時にはずっと色々な装置でデータを取ってたみたいだ。でも何かデータに出るような変化はメタリファーにはなかった。でも時折船を見てることがある。無数にある船ではない。
この大きな円盤だ。そしてその先の『彼』を見てるのではないか? と思ってた。何かを伝えようとしてる……そう彼も感じてたのかもしれない。
「君の言葉を受け取れる手段はこちらにはあまりにも乏しい。すまないな。だが、俺は諦めない。それだけが俺の取柄だからな」
そんな事を彼はメタリファーにむかっていってた。注目したのはメタリファーが時空間を司る存在ということだ。時間と空間に簡単に干渉し得る力を持つメタリファーはむしろそれに特化してるといっていい。
自分たちが呼吸を無意識にするように。自分たちの言語を別に考えなしに呟くように、メタリファーは時空間を操ることができる。ならば……交信の手段もそれになるのではないか? ――ということだ。
時空間の変化……それを観測する装置……というのは難しい。でも長い間メタリファーを観測することでメタリファーは手癖で時空間を弄ってるのをしってた。
ここにいるときはふわふわと浮いてる感じのメタリファーだが、その周囲の時空間は常に変化を重ねてる。それがメタリファーにとっての手癖なんだろう。
そしてそれだけ自然ならば、それがメタリファーの意思を表す手段だとしてもおかしくない。もしかしたらこっちを見てるとき、何か時空間に変化があるのか、それを確かめるために彼は『目玉』を製造した。




