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 聖剣はなく、拳にも血が滲む。肌には青あざが無数に浮かんできて、見た目はボロボロになっている。


「はあはあはあ……」


 腕が重い……肺も呼吸のたびに痛む。けど……そんなのは幻想だ。今の自分に肺なんて……ない。この体は機械の身体だ。もう自分の肉体は生身じゃない。この体は自分が人間だと思うために、それを再現してくれてるに過ぎない。だからこんなのは違う。


「もっと……自分が……」


 向かってくる拳。それに合わせるようにこっちも拳を向ける。本当ならこの腕に正面から向き合うのは駄目だ。そんなのわかってたのに、判断力が鈍ってたのか、思いっきり拳に拳に重ねた。次の瞬間――


ボンッ!!


 ――と自身の腕が肘ぐらいまで一気に弾けた。吹き飛んで粉々になった……わけじゃないが、まるで骨が内側から飛び出して来たような状態になった。それでも……まだ動く。


(アニキ! このままじゃまずいっすよ!)


 そんなノアの言葉がうるさい。聖剣のリーチ……それに自分がどれだけ助けられたのか……それがわかる。


(痛くない……痛くなんか……ない。痛覚を遮断するんだ)


 体の怠さも、痛みも、それらを全てシャットダウンすれば、まだまだ戦える。でも……不思議なことに、それをやっていくと、戦闘に対する思い……熱ともいうべき物がなくなっていく気もする。


 確かに効率とか、合理性? を考えると痛みなんて無い方がいいだろう。体の苦しさだって不利になるのは当たり前。けど……それらを全てなくしてしまうと、まるで自分自身が死体になったかのような……そんな気がする。それに……


(聖剣……どこに……)


 戦いの最中、聖剣は壊れてしまった。それは紛れもない事実だ。けど、聖剣は自分の中で修復に努めてる。だから壊れたけど「ある」んだ。その繋がりは確かにあったし、感じれた。


 でも……自分が痛みを……そして体の苦しさをと遠ざけると同時に、自分のなかにいるはずの「聖剣」まで、遠くなっていくような……そんな気がした。そしてそれはきっと気の所為じゃない。


 痛みと苦しさを遠ざけることは人ではなくなるということだったのかもしれない。いや、それをわかってたから、自分はそれを受け入れてた。苦しくて、痛いこと……それが生きてる事を実感させてくれてたから。

 でも今は追い詰められてそれを遠ざけた。今の僕は聖剣的にはもう生きてないのかもしれない。だから遠ざかった。


(これじゃあ駄目だ)


 天秤にかけるまでもないだろう。人を辞めるか、人で有り続けて聖剣を取り戻すかの選択肢。それの回答は一つ。痛みや苦しさは怖い。もしかしたら耐えられないかもしれない。

 だって今の傷は重症だ。それは間違いない無い。ここで痛みを戻す。地獄だろう。でも、やっぱり自分は人なんだ。一時でもそれを忘れちゃいけなかった。

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