運命/運命/運命/運命/運命/運命/運命/運命/運命/運命/運命/運命/運命/運命/運命/運命
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「ごきげんよう、牧師様、アクタガワ。お母様とお父様が待っていますので、こちらへどうぞ」
あの爆弾魔の事件から三日後。
爆弾魔から救ってくれたお礼をするため牧師様とアクタガワを家に招き入れてます。
…まあ、救ってくれたと言っても自力で脱出していなかったら私も大怪我していたでしょうけど…アクタガワは、牧師様のことしか見えてない様子でしたからね。
それでも、間接的にとはいえ私も助かったのは事実。
無駄に広い敷地内を2人を連れて私は歩いていきます。屋敷には部屋が50ぐらいあるもの…それに、屋敷は貴族の権力とか財力の象徴となるものだから、ド派手です。屋敷にたどり着くまでの庭園も広すぎますし。
アクタガワがはえー、とキョロキョロ辺りを見渡しているのを、後ろで牧師様がたしなめていました。
そうよね…私、評判が最悪ですからね…その様子を咎めるだろうと思ったんでしょうか。恩人である上に牧師様と一緒なんですから出来るわけないですよ。
それにしても、なぜ私が一人で出迎えているのでしょうか…?貴族なのになぜ私が!?ということではなくて、使用人も誰も無しに一人で出迎えることがまかり通っているのが不思議です。
公爵令嬢は幼少期から暗殺や誘拐の危険に晒されているもの。恩人とはいえ、異性で大人で力比べでは勝てはしない二人組に、幼女一人で迎えに行かせるか普通?と聞きたいです。
このゲームは妙に作り込まれているくせして、常識的に色々と有り得ない場面が多くありますから、そのゲームを世界に当て嵌める際にどうしてもおかしな部分が出来上がってしまったんでしょうね。
知ってる?私11歳。日本なら小学五年生ですよ?このだだっ広い庭園を一人で案内させますか普通?
庭園に人の気配が全然ないので、きっと周りに誰もいないのでしょう。それに、貴族の屋敷にいる使用人は、メイドなどを別として主人に見られないようにする、とかいう謎過ぎるルールがありますからね。窓から見れば庭園で働く人達が見えますが、実際に庭園を歩くとどこ行ったの?という感じです。
不思議ですよね。掃除してくれる使用人とか、私見たことがないのに屋敷はいつもピカピカです。
「こちらですわ」
ようやく私は屋敷へと到着して、アクタガワ様と牧師様を客間に案内することが出来ました。本当に誰も手伝いに来なかったわ…
それにしたって、外に出る時は日傘を持ってくれるメイドがいつもいました。今日だけおかしくないですか?全員解雇とかなりました?
「エルミニスター様、そしてその御友人のアクタガワ。先日は娘を救って頂き、感謝する。私ができることなら、何でも叶えよう」
「シルヴィアを救ってくれて、本当にありがとう。感謝しています」
お父様とお母様がそう言って頭を下げました。貴族が頭を下げるのは、それは最大級の感謝の意。
お父様とお母様って、本当に凄い人たちよ…普通、貴族は何が何でも頭を下げないもの。それに、平民と知れば足元を見ます。けれど、お父様とお母様は誠実に対応し、感謝を述べ、対等であろうとしています。
本当に、私は───私は、二人のようになりたいです。
「全て、神の教え通りに行動したこと。報酬と言うならば、我らが神のように、報われない人々のために使って頂ければ」
牧師様が微笑み、そう告げました。牧師様って教会と深く繋がっているように感じますけど…けれど、アクタガワが使っていたのは教会の嫌う特殊能力。
────あまり深く考えるのはやめておきます。それは、彼らの話。私が関わる必要性はきっと、無いでしょうから。
「了解した。……そして、一つ提案がある。拒否してもらっても一向に構わないが、」
「おねーちゃん…?……お客さん?」
お父様が何かを続けようとした時、妹の声が響く。私の可愛すぎる天使と言っても過言では無い妹、リン。
不安そうな顔をして私の方を見ています。私が、友達がいないせいで私に関する客人が今までいないからびっくりしてしまったんでしょうね……これ、自分で言って悲しくなりました。
「だ、誰!おねーちゃんに近づくな!このっ…このやろう!」
えっ?
こんな汚い言葉使いを私の純粋な妹に教えたのは誰?…じゃなくて、ど、どうしたのでしょう?こんな警戒心むき出しのリンなんて、久しぶりです。
「リン、この人達は私のことを救ってくれた大切な恩人よ。そういうことを言ってはいけないわ」
「おねーちゃん、だめ、あっちで一緒に遊ぼう?ねえ!」
「私はこの場にいないといけないから、遊ぶのはまた後でしましょう?リン、どうしたの?」
「だめ…だめ、おかしい!だめなの、いいから、おねーちゃん来てよ!」
妹の性格は、家族の誰とも似ていない『怖がり』です。
何が琴線に触れるのかは分からないけど…こういうように、いきなりパニックになることがあります。
「やだやだ…こわい、こわい、こわい…おねーちゃん、ダメだよ、だって…おかしい、リン、何もしてないのに…」
「リン、落ち着くまでシルヴィアの近くにいていいから、お父様のお話を邪魔してはいけないわ」
お母様がリンにそう言っても、リンのパニックは加速していきます。
「おねーちゃん、おねーちゃん、だめ、だって…だって、やっと…………のに、なんで…?どうして?」
「リン、何の話か分からないわ。どうしたの、お客様の前よ」
リンは、何かを凝視したまま、喋らなくなりました。目線の先には───アクタガワ?
「だめ、おねーちゃん、だめ。誰も…………、だめ」
「リン?」
無言になったリンは、すっと立ち上がり扉を開けて出ていきました。