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人質/異常/運命

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 私、シルヴィアは爆弾魔に人質にされています。これは王子の誕生日パーティのはずなのに…こんなに警備が甘くて良いんでしょうか?

 下手したら王族のどちら様かが死んでしまうかもしれないのに…というか、倒れている人々の中に王族の方がいたらどうしましょう。




「全員武器を捨てたなァ!?そのまま止まってろォ!!

 誰も動くんじゃねェッ!!!」


 ここは城で、王家主催のパーティ。出席者は重要な役職についていたり高貴な方々ばかり。

 その状態で、警備もきっと厳重なのにここまで来れてしまっている。…嫌な予感ばかりしています。


 よりにもよってこの場所この時に事件など、この爆弾魔は死刑確定。…ですけれど、それを開き直って一人でも多く道連れにと思われたら恐ろしいですね。



 何が目的なのか。王家と牧師様に対して悪意を持っているようでしたが…復讐?ここまで招き入れることが出来るのは、相当高い地位を持ってる方のみ…誰かの反逆でしょうか?

 だとしたら、巻き込まれるなんて最悪です。


 あるいは他国からの攻撃かもしれないですね。王家の誰かが死亡すれば、明日から国はパニックに陥ること確定です。

 そこを狙って…もしくはもう今の時点で侵攻を開始していたら、下手したら国自体が滅んでしまう…?



 ゲームでは一切そんな描写が無かったのに…どういうことでしょう。有り得るのは、ヒロインが転生者で他の国にいることとかでしょうか。けれどもしそうだったら、もう打つ手はありません。



「なァ牧師!!死ね!今すぐ死ね!床に落ちてるナイフで自分のことを刺せ!なァ!!!このガキが死んでもいいのか!?」


「……」



 後ろでやいやいと爆弾魔がうるさいです。

 牧師様…正直言って、牧師様の生死はどうだっていいです。私自身の死も、どうだっていい。

 家族さえ無事でいてくれたら。



「……それでお嬢さんが助かるなら」


 牧師様が落ちているナイフを手に取って、首へと向けました。

 正直言って、牧師様が死んだところで私は助かりはしないのでしょう。私が解放されるとしたら、爆弾魔の要求が全て叶えられた時…ですが、もしそこに王家の滅亡が含まれていた場合、優先されるのは当然王家。


 貴族は、何よりも血と伝統を重んじる。王族を守り死んでいくのは、貴族としての誇りだと。…そう思わなくては。







「………は?」




 低い低い、誰かの声が響き渡る。声に宿っていたのは圧倒的な殺意と憤怒。

 その声は。




 牧師様の持っているナイフと、私の首の近くにあったナイフが天井に向かってサッと浮き、そして…




 糸がプツリと切れたかのように、1度天井でナイフが止まり、そして落下しました。私はナイフが浮かび上がった時点で爆弾魔のみぞおちを殴り、すぐさま逃げました。


 落ちてきたナイフは、私の後ろにいた爆弾魔の体の右側をことごとく切り裂きます。私のことは、目に入ってなかったんでしょうね…そのまま爆弾魔の腕の中にいたら私もスパッと切れていたでしょう。

 血がドバドバって流れ始めるのを、私はどんどん逃げながら横目で見ます。右腕はまだあるべき場所にありましたが皮1枚。


 相当痛いんでしょうね。声にならない叫び声を上げています。…でも私のことを人質にした爆弾魔にくれてやる慈悲などありません。




「あのさ。…さっき誰に向かって死ねって言った?」



 私が先程まで聞いていた声。

 同じはずなのに威圧感が違ったのです。

 ダンスホール内が殺気に満ちて、誰もが動けなくなりました。




「アクタガワ、あまり無茶なことは…」


「お前こそ無茶なことするな、お前がもしも死んだら俺絶対後追うぞ」


「私が死ぬ時にあなたを連れていかないわけないでしょう?…今言いたいのはそれじゃなくて、こういった場所で特殊能力を使うのはあまり良くない」


「俺がお前か俺かを選ぶってなったらお前を選ぶ。知ってるだろ?」


「知ってますけど、それとこれは話が別です。大体、血を沢山出すだけでどうせ死にはしないんですから」


「俺は、お前が傷つくのを見るのは絶対に嫌だ」


「あなたはこういった場所で特殊能力を使うことの危険性を分かってない!私だって自分自身よりアクタガワの方が大事なんですから!」



 アクタガワが特殊能力を使えることには驚きましたが、それよりも気になる事が。この空間は今“魔法を使えなくする魔法具”によって支配されてます。

 その中で特殊能力を使えるということは、特殊能力は“魔法”ではないということでしょうか…?


 それに、この場所で特殊能力は、私も軽率であると言わざるを得ないです。国の中枢にいる老害…いえ、年老いた方々は特殊能力を認めていません。

 牧師様はどうやら神の教えよりもアクタガワの方が大切なようですが…教会側の方々は特殊能力は神に認められていない、と考えています。




 すると、突然。

 牧師様とアクタガワの近くでうめいていた爆弾魔は、牧師様に向かって突進してきました。



「死ね…死ね…死ね死ね死ね死ね!!」



 アクタガワの特殊能力についてヒソヒソと話している人たちや、怪我を負って呆然としていた人たちの間に、瞬く間に緊張が走ります。




 それにしても、何故もう動けるのでしょうか?



 …あ、そうでしたこの人、【回復の御札】を持っているんでしたね。【回復の御札】はどんな攻撃であっても1回のみ防ぐことが出来る優れた物。


 そうなると不思議ですね。【回復の御礼】は攻撃を無かったことにできます。なのに、爆弾魔に攻撃は通り、すぐにはその効力を発揮していません。



 牧師様は落ち着いた表情で爆弾魔を蹴り飛ばし、爆弾魔は吹き飛んでいきました。城のダンスホールの端から端まで飛び、その体は頭から壁に突き刺さっています。…人って、壁に刺さるのね。

 それと同時に、持っていたであろう【回復の御札】がひらりひらりと舞い落ちてきて、塵となって消えていきました。




 それを見てようやく、兵士たちが動き始めます。

 全員王家の方々を守るために動いていたようです。王家の方々の周りにあった厚い肉壁が少しだけ解かれ、少人数のみが壁に突き刺さった爆弾魔を引きずり出してずるずると連れていきます。

 残りの兵士たちは、あるかもしれない次の攻撃に備えて警戒しています。


 数分経って、ようやく緊張が少し解け始めて、人々が動き始め身を寄せあっています。

 お母様とお父様が、真っ青な顔をして私の方へと駆けてきました。



「シルヴィア!!ああ、私の愛しい子、あなたが無事で本当に良かった…!怖かったでしょう?よく泣かずに耐えていたわ。今日はもう帰りましょう」


「…お母様…う、ぁ、ううううう」



 お母様に抱きしめられると、自然と涙が流れてきて…私は歯を食いしばりますが、涙は止まりません。それを見てお母様が私の頭を撫でてきて、よりギュッと抱きしめられました。



「娘を救って頂き、本当にありがとう。本日は、すまないが娘のため帰らせてもらうが、後日御礼は必ずすると約束しよう」


 お父様が牧師様とアクタガワに向かって深く頭を下げました。お父様も、お母様も、私のことを大切に大切に愛してくださってる…痛いほどに。

 私はその後、お父様とお母様に連れられて王子の誕生日パーティを早退しました。私が人質になったことからも、私たち一家が犯人と繋がっている可能性は低いだろうということですぐに解放されました。






「……」


 涙で顔を覆っていたので、私は、最も警戒すべき人物をちゃんと見ていませんでした。

 第一王子であるアルヴィン・ニコラス・ヘンダーソン様に、じっと見られていたとも知らず、私はお母様とお父様に連れられ城を後にしました。

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