現実逃避/設定
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ふふ。
あははははははははははははははははははは
ははははははははは
はははは
はは
ははははは…はあ。
…プツリと、何かが切れたような音が、聞こえました。
どうしよう。どうしようかな。
こんなことになるとは思ってなかったです。私、ただ王子との婚約を回避しようと息巻いて来ただけなのに…
話が変わりますが、“シルヴィア公爵令嬢”としての自我は、前世を取り戻した時からゆっくりと融合されていく感じがありました。
今ので、自我の統一が行われたのでしょう。…それが良い事か悪い事かは私には決められません。
私は、今まで“シルヴィア公爵令嬢”でも“海聖美衣”でもない、宙ぶらりん状態でした。
二人の性質が大きく違うからこそなのか、“私”は普通の価値観を持っています。あの二人は、持っていないのに。
どちらも他人のように感じていて…“シルヴィア公爵令嬢”は我儘で高慢で傲慢。“海聖美衣”は最低最悪の親不孝者。“私”は何者でもないどちらかに偏ることもない普通の人間。
そこに、爆弾魔の人質と人の死、という恐怖に襲われてしまったのです。
二つの異なる精神の間に生まれた特異点のような私の自我。それが、他の2つの人格を過去の物として認識し、私が主要人格となりました。
さて、考察はここぐらいにしておきましょう。私の自我については、今は優先順位が低いことです。いつか必ず、ちゃんと解き明かす。それだけで今は良いでしょう?
さて、前回のあらすじです。
王子のパーティにて、いきなり爆発音がし、爆発を起こしたらしい人に私は人質にされました。
私は前世を持ってるとはいえ、強くなったり現代知識とかで無双したりとかできません。
魔法は、まあ、少し特殊ですけど…。でも、家族にしか話していない魔法なので、外からの教師を雇って学ぶことができないんですよね。
「全員両手を上げろと言ってんだろうがァ!従わなかったらコイツがどうなるか分かってんのかァ!?」
吐き気がするような声。
ふふ。ええ、だんだん腹が立って来ました。“シルヴィア公爵令嬢”が怒りっぽいからか、“私”の沸点も割と低いみたいです。
全部終わったら、絶対に、公爵家の権限を持って二度と外を歩けないようにしたいですね。
「おい、テメェ牧師だろォ?神の加護を持っているとかふざけんじゃねェよ!!何が人は全員平等だァ!?テメェは最初に死ね!!!王家の奴らも全員死ねェ!!!!」
「…私の死でお嬢さんが救われるなら死んだって構いません。しかし、他の人も死を受け入れるよう強要するなら…
貴方に、天罰が下るでしょう。」
「あぁァ!?天罰だぁ?無いんだよ、そんなモンはよォ!神ってのは大勢の野郎に天罰を下せても、個人に対して神の力を使うことは出来ねェんだろ!
分かったらさっさと死ね!殺そうとしても無駄だ、俺は【回復の御札】を100枚持ってるからなァ!100回殺してみろ、その前にコイツの首が飛ぶがなァ!!!」
耳元で唾液を飛ばしながら話すのを辞めてもらいたいです。気持ち悪いわ。
【回復の御札】というのは、ゲーム内でかなりコインが必要だったアイテムですね。そんなモノを100枚も。
1枚買うのに平民の平均給料五十年分でした。一度きりではあるものの、どんな攻撃でも無効化するという御札。
そんなものがあるなら持ち歩けばいいと思うでしょう?けれど、とっくに【回復の御札】を作る技術は消えてしまっているのよ。
紛争で絶滅したとある民族の、伝統的な技術によるもの。つまり今では値段がつりあがり1枚で貴族の屋敷が買えるほどです。
ちなみにヒロインは、幼なじみがその民族の最後の生き残りで、お友達価格で譲ってくれるんですよね。ズルいです。
そうそう、こんな状況ですし私が十中八九転生してしまった乙女ゲームの話をしましょう。今の私はボーッと突っ立って、何か進展しないか待つことしかできませんしね。
乙女ゲームの舞台は、ソルセルリー学園。そこで生徒は大きく6つに分けられます。制服が、それはもう可愛いことでも有名ですね。
白は、私のような公爵家の者や伯爵家の者、そして王子が入るクラス、とでも言いましょうか。貴族の中でも、トップレベルに君臨する子供たち。
暗殺とか怪我とかが起きたら、冗談なく国が揺らぎますからね。差別は駄目でも区別は必要です。
赤は、悪く言ってしまえば、身分によって入るクラス。白以外の貴族で、特に目立った業績などが無ければここに入る人がほとんどです。
白と赤は、身分が高ければ学力が低くても入れるようになっています。一週間に二回クラス全員で授業を受け、三回は選択科目。
ソルセルリー学園は、選択科目が多いことでも有名です。花嫁修業から、チェス、乗馬、数学、獣医学、農林学、他にも様々です。確か、申請すれば新しい科目を増やすことも可能でした。
青は、騎士、剣士、近衛、冒険者、ハンター…など戦術を習いたい人が入ります。魔法は習いません。
こちらは、学問は基礎のみ。一週間に一回のみ座学、その他はそれぞれ得意な武器や戦い方に合わせて先生が変わっています。
とはいえ、魔法や座学を学びたいという声が多く、そういった人のために土日の講座が出来ました。これは、どのクラスでも関係なく好きな科目を選択することが出来ます。希望制なので、1回で辞めても構わないのです。
紫は、魔法剣士、ヒーラー、魔法戦士、魔法道具メーカー…など魔法中心に習いたい人が入ります。希望科目によっては、武器の使い方を習ったりもします。
こちらも学問は基礎のみですね。土日講座も青と変わりません。
緑は、商売や政治、考古学、建築など…上記以外について習いたい人が入ります。研究に進む方が1番多いのが緑です。企業とかは、緑の生徒に対しての援助を惜しまないのです。全ての時間割が選択科目となってます。
白と赤とは違って、青、紫、緑は、学園に入るために受けるテストで入るかどうかが決まります。超実力主義です。
ソルセルリー学園卒業、という肩書きの重みは凄いのですから。
テストは様々で、自分の得意分野で挑むことが出来ます。
そうね…歌、裁縫の速さと緻密さ、暗算、マナー、販売している商品、喋ることが出来る言語、記憶能力などなど。
珍しい人だと、初対面の動物からの信頼度MAXとか、育てる牡蠣は絶対に当たらない能力とか、そういった方々も過去にいます。
動物の卒業生は、使い魔やペットの寿命を平均10年ほど延ばすことに成功、その他にも動物に関する病気の治療法を確立したりなどで、「偉大なる平等な救世主」と讃えられています。
牡蠣の卒業生は、幻と呼ばれ…出会えたら一生分の幸運が約束されるとか、その牡蠣を食べたら一族が没落することの無いとか、商売繁盛するなどの噂が広まっています。どうしてそうなったのか、とても気になるところです。
こういった特殊能力を承認して広めていこうとしたのが、ソルセルリー学園の校長先生。今までは特殊能力は恐れられてきましたが、その違いこそが時代を変える、と公言しています。
神を信仰する教会側の人々は全然受け入れてないどころか、処罰の対象とまで思っていますので、学園と教会の対立は深くなっています。
ソルセルリー学園以外は、まだ特殊能力の受け入れを行っていません。
そして…私の、家族にしか言っていない魔法。それは特殊能力なんです。だからこそ、牧師様と話すのは余計に怖かったんですよね。牧師様は、教会側ですから。
話を戻して、最後のクラスです。黒は、特に期待されているクラス、とでも言いましょうか。お金は全て免除されます。しかし、毎年10人程度しか入れません。
ヒロインは、聖魔法を評価されて黒に入ります。ヒロインの聖魔法は、伸び代が半端なかったんです。最初は、小鳥を癒すことしか出来ませんでしたが、最後は涙の一粒で国全体が浄化されるほどになります。
ヒロインの基本ネームは、エルーア。
薄い桃色のポニーテール、オレンジと緑が混ざったような惹き付けられる目、天然でありながらもその行動は鬱陶しくなくむしろあまりにも可愛い。
それでいて、戦う姿のスチルは、あまりにもイケメンで…銃を構える時のスチルなんて、目の光が消えた状態でかっこよすぎて尊いのです。
こんなにギャップ萌えの推されること間違いなしのヒロイン。…残念ながら、この乙女ゲームをプレイしている人はネット上では見つけられませんでしたが。
今まさに爆弾魔に襲われているパーティの主役、アルヴィン・ニコラス・ヘンダーソン様。ここ、フェルテサル王国の王子です。
ヒロインの可愛さに微笑ましいな、けれど何でこんなに心が掻き乱されるんだ…?と揺れていた王子に対して、その恋を自覚させたのは、ヒロインの絶対に守るというカッコ良すぎるセリフ。
恋を自覚したものの、婚約者がいる状態で他の人にうつつを抜かすのは浮気ではないのかと苦しむ王子。王子ルートではカッコイイヒロインのスチルが多く眼福でした。
まあ、“シルヴィア公爵令嬢”になった身からすると、浮気はクソという意見一色ですけどね。最終的に、“シルヴィア公爵令嬢”は死んでしまいますから。
他にも攻略対象がいますが、学園に入ったらでいいでしょう。おそらく接点はあまりなさそうですし。
さて。…自分でも理解していませんでしたが、どうやら私は現実逃避をしていたようです。