東の国/殺意
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「えぇーっと、まず…俺の名前はアクタガワ。26です。あっ、俺、平民なので無礼を働いたら本当に申し訳ないというか、あの…」
えっ26歳?
20歳くらいだと…ちょっと老けてるって思えば15歳でも通じる見た目なのに…いえ、見た目に関することをとやかく言うのは失礼にあたりますわね。私としたことが。
アクタガワの年齢は置いておくとして…それよりも、日本について聞かなくては。…アクタガワの隣からじっと見てくる牧師様は怖いですわ…なんか喋ってくださいまし。
「アクタガワ、お忙しい中来て下さりありがとう。お呼び立てしたのは私ですから、楽にしてもらって構いませんわ。少しお聞きしたいことがあるんですの。あなたの名前について」
アクタガワが平民と名乗り、私が公爵令嬢である以上どうしても命令する立場になってしまうのよ…ぼ、牧師様の目線が怖い。
「俺の名前?」
不思議そうに目を細めたのを見て、踏み込みすぎてしまったとヒヤリとしましたわ。そうよね…様々な国と隣接している以上、聞きなれない名前の方々が多数存在する国だから、日本の苗字でも紛れ込めるもの。
「あー、えっと、俺この国じゃなくて…一番東の国から来たんだ。そこの名前だから、きっとシルヴィアさんは分からないと思う」
東の国!地球上で日本は東、日付が最も早く変わる国の一つですものね!
まさか王子のパーティで、同郷の人と会えるとは…!これまでいくら探してもいなかったのに!
一気に嬉しくなり、私は自分が日本で生きていた前世があると言おうとして…その隣にいる牧師様の姿が目に入り、すぅっと頭が冷えましたわ。
公爵令嬢として生まれながら、最東端の国を知っている。それは…得体の知れない、と思われないかしら。
牧師様は、牧師である以上神重視で動いているお方なのは間違いありませんわ。
そして、神と正反対の魔王や魔物。それらが使うような異端の魔術でも使ったのかと、そう思われたら…最悪国が滅んでしまいません…?
後先考えずに行動するのは止めるべきかしら…自分で自分自身を破滅に導くなんて絶対嫌ですわ。
「…?シルヴィアさん、どうかしたか?」
「……すみません、私───」
ドガーーーーーーン!!!!!!!!バンバンバンバンバンバン!!!!!!!!ドガーーーーーーン!!!!!!!!
…爆発音ですわね?
爆発による暴風に押し倒されてその場にしゃがみこんでしまいましたわ。
というか、少し飛ばされてしまったかもしれないですわ。私は今現在ロリっ子姿…したがって風が吹けば飛んでいってしまうほどひ弱で軽いのよ。
それに煙が辺りに充満してて、目が痛いですわ…!アクタガワと牧師様は無事かしら…というか、王家の方々や偉い方々が全員揃っているところに、なんてことを!
─────待って、こんなイベント、ゲームには無かったでしょう!?なんですの!?
だって、“ゲームのシルヴィア公爵令嬢”がアルヴィン王子と出会った時について、ゲームでは、
『シルヴィア公爵令嬢はアルヴィン王子の誕生日パーティにて、アルヴィン王子を一目見た瞬間恋に落ち、ずっとアルヴィン王子の隣にいて、近づいた令嬢を誰彼構わず威嚇した。』
『屋敷に帰ったシルヴィア令嬢は、すぐさま両親にアルヴィン王子との婚約を結ばせた。』
って書いてありましたわ。一言一句合っている自信がありましてよ。“シルヴィア公爵令嬢”の脳はかなりハイスペックらしく、一度聞いた事見た事は全て思い出せるのよ。
爆発が起こった、とか書いてなかったですわよね…?そうよね?
…もしかして、ずっと王子の隣にいて、他の令嬢にばかり意識を向けていたせいで爆発音が聞こえなかったとか。
「全員手ェ上げろォ!武器を持ってるやつはァ両手をついて寝そべろォ!ここで魔法はァ使えないようにィ魔法具を使っているからなァ!
もしも逆らったらこの城を爆発させるぞォ!!!
俺はァなァ、お前らのようなァ身分の高ェ奴らが大っ嫌いなんだよォ!!!!」
鳥肌が立つような嫌な声が、煙で見えない城中に響き渡る。
ああ、シルヴィア公爵令嬢はバカ確定かしら。記憶能力はハイスペックでも残念な方っているものね。それとも記憶喪失にでもなったのかしら。
こんなトラウマになる可能性大のハプニングを忘れる人はそうそういないような気がしますけど!しかも公爵令嬢でしょう!?花よ蝶よと愛でられこんな怖いことなんて体験したことないはずなのに!
…それともゲームとは違う展開になってきているのかしら?
私という存在が異端で、この世界がおかしくなってしまったとか?
私の両親の仲を良くしたり、周りの人々との関係性を改善したり、日本について聞き回ったり、妹ができたりしたわ。確かに変えている。
けれど…それは、死亡から逃れるためで、良い方向に改善したはずよ。なぜ爆弾魔イベントなんて出来るの!?
「っ…!?」
がっ、と首元を掴まれて誰かに引き寄せられましたわ。
首に腕が回されて、首筋に刃物が当てられています。
「ひっ…!」
煙がようやく晴れて、騎士や魔術師の方々が武器を持って警戒状態に入っているのが目に入りましたわ。…武器を?待って…本当に魔法が使えなくなってるわ!
そんな魔法具、反則じゃない…!
そして、頭から血を流して倒れていたり、手や足を押さえて苦しんでる人、腹にぽっかりと穴が空いている人の姿が。
「おいィ!武器を持っている野郎共ォ!こいつがどうなってもいいのかァ!?!?早く武器を下ろせェ!今すぐにだ!!
怪しい行動をしたらこいつの首がァ吹き飛ぶぞォ!!なァ!!もっと人が死ぬのを見たいかァ!!!」
そして、後ろにいるその人と、目が合う。
どこまでも濁っていた。
いや。
いやだ。
やだ。
怖い。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
なんでこんなことにだって私ちゃんと行動したのに両親との喧嘩だってしないし妹とも仲良くしてるしちゃんと今世では頑張ってきたのにだからって何でゲーム始まる前からこんな目に遭わないといけないの私頑張ったじゃんちゃんと努力したじゃん私シルヴィアになってから1回も腕切ってないしあれだって1回もやってないし薬だって飲んでないよちゃんと勉強してるし逃げ出さなかったし幻滅されたことないし人間関係もちゃんとしてるよ悩んで悩んだけど逃げなかったよちゃんと生きてるよ私の罪だってあれは前世のものなんだから置いてきたじゃんなんでこんな目に遭わないといけないの私が悪いの違うでしょ私悪くないもんちゃんと頑張ってやっと改心したのに親孝行だってちゃんとやってて王子なんか死んじゃえ私死にたくないよなんで私がこんな目に目が痛いいたいよなんで悪役令嬢になんてならなくちゃいけないの怖いよ助けて欲しい他の人が人質になればいいじゃんこんなのやだ信じられない私どうすればいいのなんでお腹に穴が空いてる人がいるのお母様とお父様は無事なのどこにいるのはやく家に帰りたいよ妹に会いたいだって人が死んでるし私そんなこと望んでないのに私頑張ったじゃん頑張ったじゃんなんでなんでなんで神様がいるなら死んでしまえばいいのにでも助けて。
────助けて。