仲間
更新遅れました!もはやこの前書きを書くのが日常になってきてることに気づいて愕然としました。
本当に申し訳ございません
「お嬢さんは、本当に信用に足る人物ですか」
牧師様にそう言われた瞬間、頭が真っ白になって何も考えられなくなりました。
怪しまれて、います。
それも、攻略対象の、エルミニスター=ラダガスト・ルーン様に…!
牧師様が攻略対象の時の、乙女ゲームでのバッドエンドではどれも、ヒロインいじめに関わった人皆殺しとか、国自体が滅んでしまうなど、広範囲に被害が出ます。
何の罪もない住人を殺してでもヒロインを一途に思ってしまうのは、やはり魔王の力でしょうか。その点では、人間を恨む魔王の目的は達成されたと言えるでしょう。
話を戻しますと、今私は、完全に、牧師様に疑われています。
もしも牧師様が、この国に失望してしまったら。貴族に苛立ったら。この国に尽くせないと、いっそ滅んでしまえと、思ってしまったら。
これは、私だけの問題ではなくなります。
下手したら、なんの関係もない住民も、誰もかもが殺されてしまいます。始まってすらいない乙女ゲームのバッドエンド一直線です。
「ぁ」
私はパーフェクトエンドについて思い出して判断力が鈍っていました。いや、前世のことを思い出しすぎて貴族として当たり前のことを、忘れてしまっていたのです。
私は、とても馬鹿なことに、最悪の場合を想定せずにここに来てしまったのです。
牧師様がとても強いことを、ここが私にとって生きづらく作られた乙女ゲームだってことも、知っていました。
なのに、私は……!
「なぁ、エルミニスター」
「…なんですか」
「俺は貴族のこととかなんにも知らないし、隠された意図とか意味不明だし、こーいうのはお前に任せた方がいいって分かる。
それに、馬鹿だからお嬢さんに騙されてるだけかもしれないし、お前を説得できるほど大層な理由がある訳でもない。」
「……それで、何が言いたいんです?」
怖くてたまりません。
学園内で、乙女ゲームのルートどおりに進むのなら、ある程度未来が分かります。私がこれから起こることを言えば、説得することだってできるかもしれません。
けど、ここは乙女ゲームが始まってすらいない時。すなわち、どうなるか分からない時です。私は、乙女ゲームの時に起こることしか分かりません。
そんななかで、ヒロインの名前だってまだ国に伝わってすらいないのに、どうやって私が言ってることが真実だと証明できるのでしょうか。
耳が熱くて、何も聞こえません。
牧師様と芥川が何かを喋っているような感じがしますが、私の耳には黒板を爪でひっかいた時のような、耳障りな音しかしません。
そもそも、芥川が私の味方になる保証だなんて、欠片も無いのです。
何を勘違いしていたのでしょう。
本当に仲間になってくれる人なんて存在するわけないじゃないですか。
ここに来るまで話したことだって、用意した答えだって、意味がなかったのでは。
ここは、かつて読んでいたラノベのように、主人公に都合の良い世界では無いのです。
私が孤立するように、悪役となるように、魔王そのものが仕向けた世界なのですから。
そんななかで、牧師様や芥川が私のことを信じてくれる可能性なんて、ゼロです。
きっと芥川だって、今に私のことを疑い始めて…
「だけど、俺はお嬢さんを信じる。」
…………疑い始めて、いるはずですのに。
何を言っているのか分からなくて、芥川を見ました。
頭に入ってきても、意味が分かっても、心では理解できません。
どうして芥川は。
どうして、そこまでしてくれるのですか?
信じるだなんて、どうして?
だって、私の言ってることなんて何一つ根拠も証拠もないのに。嘘つきかも、しれないのに。
心がバクバクして、全身が熱い。
目のところが熱くてたまらない。頬に何かが流れる。
信じるなんて、言われたことないのに。
私は悪役令嬢で、芥川は攻略対象の友達で。
共通点なんて日本人ということしかありませんし、芥川が大事にしている人ならエルミニスター様の方が上でしょう。
なのに、どうして?
どうして私はこんなにも、嬉しいのでしょうか。
涙が溢れて、止まりません。鼻水だって出てきたのに、口だってカラカラなのに、それでも私は泣くのです。
だって、ヒロインはみんなに好かれて、命だっておしくないほど大切だと思われるのが当たり前でも!
私は、悪役令嬢です。
ヒロインには決してなれないし、絶対に好かれないし信頼なんてされない世界なのに。どうしてそんな私を、芥川は信用してくれるのですか?
涙は少なくならず、むしろさっきよりも泣いてしまいます。
分からないです。だって、私は悪役令嬢で、魔王がいたとしてもヒロインをいじめたことには変わりないのに。
私は、「悪役令嬢」で…
「エルミニスター、ここで一人で静かに泣きじゃくってるお嬢さんは、ただのシルヴィアだ。それでもお前は、この子が信用に足らないと、本当にそう思うのかよ!」
何も知らないのに。
会って間も無いのに、どうして信じてくれるの。
ただのシルヴィア、だなんて。どうしてこんなにも芥川は私が、言って欲しくてたまらなくて、でも諦めてしまっていた一言を、こんなにも簡単に言ってしまえるの。
泣いたことが理由なんて。そんなの、ズルいじゃないですか…!
ぼたぼた、と涙を流していると、やがて牧師様が口を開きました。
「…お嬢さん、疑って悪かったですね。」
ふぅ、とため息つくと、呆れたような顔をして芥川を見た後、鋭い目線を消して私を見ました。
その顔にはもう、疑っている気配はなく、少しどこか楽しんでいるようでした。
その目には、子供が二人問題に直面するのを自分たちで乗り越えれるように見守っているだけの大人のようにも見えました。
芥川が私を見て、にぃーっと笑い、牧師様の手を取り近くに来させました。引っ張られるままに近くに来た牧師様が、芥川の髪を犬を撫でるみたいに扱い、その後私達を見つめて、
「正直本当かどうかは確かめられない話です。けど、今はそれは置いておいて…一つ教えてください。
あなたたちは、私に注意しろと言いに来たんですか?それとも、私に助けを求めに来たんですか?」
と言いました。
「そりゃもちろん、」
芥川と私はほくそ笑んだあと、牧師様を見ました。
このセリフを言えば、乙女ゲームのルートから外れられます。つまり、牧師様は攻略対象ではなくなるのです。絶対に。
芥川が、きっとこのセリフを言うだろうと予想していたので、答えは用意してあります。
長年一緒にいるのだから考えることぐらい分かる、と笑顔になった時には、信頼しか溢れていませんでした。だから不覚にも私は信用してしまったようです。
そして、私はその選択をもう後悔なんてしません。
「一緒に悩んでくれる仲間になってほしい」